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ジョン・スミスという名前 John Smith [Daddy-Long-Legs]

Daddy-Long-Legs(Century,1912)22.JPG
(1年生9月24日の手紙)

(でもジョン・スミスなんて呼ばれることを望んでいるひとに、どうして「かしこ」まったりできるでしょう。どうしてちょっと個性のある名前を選びだせなかったのでしょうか。これではまるで拝啓馬繋ぎ柱さまとか拝啓物干し柱さま宛てに手紙を書いているようなものです。)

   もういちど1年生の最初の手紙。

ジョン・スミス宛に手紙を書くことは、『あしながおじさん』冒頭の「ブルーな水曜日」で、リペット院長からジュディー(ジェルーシャ)が言い渡されたのでした。――

"These letters will be addressed to Mr. John Smith, and will be sent in care of the secretary.  The gentleman's name is not John Smith, but he prefers to remain unknown.  To you he will never be anything but John Smith. [. . .] (Penguin Classics 10)
(その手紙はジョン・スミスさま宛として秘書気付で送りなさい。紳士の名前はジョン・スミスではないけれど、本名は隠しておきたいご希望なのです。あなたには、ただジョン・スミスという名前のかただということ以外はなにもわからないのですよ。)

  ジョン・スミスというのは、敢えて日本でいえば、山田太郎とか鈴木一郎みたいな名前であって、実際にそういう名前の人はもちろんいるわけですけれども、「無個性」の名前の典型です。

  ひまができたら文学作品におけるジョン・スミスをリストアップしてみたいという思いがむくむくとわきおこる(あんまり意味はないw)のですが、とりあえず自分に現時点ではっきりと思い起こされるのは、ポーの短篇小説です(イギリスの劇作家の誰だったかのなんだったかの芝居にもジョン・スミスが出てきますが、思い出せませんw)。

  最晩年の1849年に発表されたポーの短篇小説「Xだらけの社説 X-ing a Paragrab」にライヴァル編集者として出てくるのがジョン・スミスですが、これはほとんどのひとの記憶には残らないかもしれません。10年前の1839年に発表された短篇「使いきった男 The Man That Was Used Up」の主人公は「まことに容姿端麗なる男」だが「人物の個性(individuality) 全体に奇異なところ」があります。体の大部分が「モノ」にとって代わられており、脚・腕・肩・胸・歯・目・口蓋、その他、体のモロモロの部分がインディアンとの戦争によって奪われている、サイボーグ的な人間、というかそれも超えて、いったい何がこのひとをひとたらしめているのか、人間のどこまでが人間たるのか――どこまで"dividual" なのか――という、アイデンティティーの問題を喚起する、コミカルな物語です。この「特別進級代将」の名前がジョン・A・B・C・スミスというのでした。John A. B. C. Smith――ジョン・スミスのあいだにミドルネームのイニシャルがABCです。たいへんわざとらしいです。「美空ドレミひばり」みたいなもんです(ちがうか)。意識的にポーがジョン・スミスとABC を合わせているのは確かでしょう(自信99パーセント)。

  ちなみにGreenwood 社の The Poe Encyclopedia には、見出しが "Smith, Brevet Brigadier-General A. B. C." でこのキャラクターが載っています。 "brevet" は「名誉進級による」という意味の(ここでは)形容詞です。"brigadier general" は大佐と少将のあいだの「准将」「代将」。まあ、確かに作品内でも長々としたこの「名誉進級代将」という肩書きがくりかえし付されるのですけれど、"John" が抜けています。イカンです。

  しかしまた、ジョン・スミスは、アメリカの歴史においてインディアンがらみ&南部がらみで記憶される名前でもあります。ポカホンタスのジョン・スミスです。

  茫漠とつづくかも。


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morichan

kaoru さんこんばんは~♪
by morichan (2010-02-06 00:46) 

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