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ロング・レッグズ船長、ジョン・スミス船長、ジョン・シルヴァー船長 Cap'n Long-Legs, Cap'n John Smith, Cap'n John Silver [Daddy-Long-Legs]

ジョン・スミスは、『あしながおじさん』の最初の手紙でジュディーが不満を述べるように無個性の名前の典型なのですけれど、アメリカ史のなかでは、1620年のピルグリム・ファーザーズによる北部のプリマス植民地建設に先立つ1607年に、最初の恒久的植民地を南部ヴァージニアに設立したひとの名として思い浮かぶ名でもあります。

  前の記事に載せた1907年の記念切手でもそうですが、ジョン・スミスは "Captain" のタイトルを付されるひとでした。そのことは、彼の業績を語る図版でも確認されます。――

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"A description of part of the adventures of Cap: Smith in Virginia" (クリックでちょっと拡大)

  "Cap: Smith" とか "C: Smith" とか、コロンの使い方は現在のものではありませんが、ともかく、J. Smith ではなくて Captain を冠した呼ばれ方をしています。

  著書でも "Captain John Smith" です。――

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A Description of New England: or The Observations, and Discoveries, of Captain John Smith (Admirall of that Country) in the North of America, in the Year of Our Lord 1614: with the Successe of Sixe Ships, That Went the Next Yeare 1615; and the Accidents Befell Him among the French Men of Warres (London, 1616)

  1609年のインディアンとの戦いの際に怪我をしてヴァージニアを離れ帰郷していたジョン・スミスは、1614年と1615年に船でニューイングランドのマサチューセッツからメインにかけての海岸の探検を行ないます。しかしフランスの海賊に捕えられ、数ヶ月の抑留後に逃亡してイギリスに戻ります(以後はもっぱら故国で文筆にいそしみます)。その探検行の記録が1616年にロンドンで出版されたのでした(E-text (pdf.) @University of Nebraska <http://digitalcommons.unl.edu/etas/4/>)。

    ジョン・スミスというひとは、探検家であり冒険家であり、船乗りの船長さんでありました。

  ☆ ☆ ☆ ☆

  『あしながおじさん』のなかで、一箇所、あしながおじさんが "Captain" と呼ばれるところがありました。

skull&bones,Daddy-Long-Legs.jpg

Ship ahoy, Capn Long-Legs!

     Avast!  Belay!  Yo, ho, ho, and a bottle of rum.  Guess what Im readling?  Our conversation these past two days has been nautical and piratical.  IsnTreasure Island” fun?  Did you ever read it, or wasnt it written when you were a boy?  Stevenson only got thirty pounds for the serial rights―I don’t believe it pays to be a great author.  Maybe I’ll teach school.
     Excuse
  me for filling my letters so full of Stevenson; my mind is very much engaged with him at present.  He comprises Lock Willow’s library.
     I’ve been writing this letter for two weeks, and I think it’s about long enough.  Never say, Daddy, that I don’t give details.  I wish you were here, too; we’d all have such a jolly time together.  I like my different friends to know each other.  I wanted to ask Mr. Pendleton if he knew you in New York―I should think he might; you must move in about the same exalted social circles, and you are both interested in reforms and things―but I couldn’t, for I don’t know your real name.
     It’s the silliest thing I ever heard of, not to know your name.  Mrs. Lippett warned me that you were eccentric.  I should think so!
                                                                                   Affectionately,
                                                                                                                JUDY.
     P.S.  On reading this over, I find that it isn’t all Stevenson.  There are one or two glancing references to Master Jervie.
(船やああい、ロング・レッグズ船長!
 止まれー! それでよーし! よー、ほー、ほー、ラム一本だ。何を私が読んでいると思います? この二日間というもの私たちの会話は海事・海賊関係のことばでいっぱいでした。『宝島』って本当におもしろくないですか? この本を読んだことがあるでしょうか、それとも子供の時分にはまだ書かれていなかったかしら? スティーヴンソンは雑誌連載してたった30ポンドしか得られなかったのです――偉大な作家になってもあまりもうからないみたいですね。学校の先生になろうかしら。
 手紙がスティーヴンソンだらけになってしまいごめんなさい。私の頭は目下スティーヴンソンでいっぱいです。ロック・ウィローの書庫を構成しているのはスティーヴンソンなんです。
 この手紙には二週間かかっていて、ちょっと長すぎるかなと思います。けれども、ダディー、細かいことを書いていないじゃないかと決して言わないでください。  あなたもここにいらしたらいいのに、と思います。そうすればみんな一緒に楽しい時を過ごせるでしょうに。私、自分のお友達同士が知り合いになってもらうのが好きです。  ペンドルトンさんに、ニューヨークであなたを知っているか聞いてみたかった――知っているかもしれないです。あなたはきっと同じような上級の社交界に出入りしているにちがいありませんから。そうして、あなたもジャーヴィスさんも社会改良などに興味をもっていますし――けれども、尋ねることができませんでした。だって本当の名前を知らないのですもの。
 名前を知らないなんて、こんな馬鹿みたいなことがあるでしょうか。リペット夫人があなたは変なおじさんだって私に注意しましたけれど、ほんとうにそうだわ!
                                      愛情深い ジュディー
 追伸 読み返してみると、全部がスティーヴンソンではないですね。ジャーヴィー坊ちゃまがちょこっと出ています。)

  "Cap'n John Smith" と呼んでいるのではありません。しかし、「名前を知らないなんて」と、本名を教えられないでいることに対する愚痴がまた出てくることから、「ジョン・スミス」という名前を頭にのぼらせていることも確かでしょう。そのうえで、記事「ロング・ジョンとジョン・スミスの脚 Legs and Long John and John Smith」で書いたように、『宝島』の片足 (one leg / one-legged) のジョン・シルヴァー船長が「ロング・ジョン」と呼ばれていることをジュディーが意識していたならば、ロング・ジョン―ロング・レッグズ―ジョン・スミスという連鎖が、百足の足のごとく、とはいえないまでも、起こっている可能性はあるのではないでしょうか。

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A Description of New England: or The Observations, and Discoveries, of Captain John Smith (Admirall of that Country) in the North of America, in the Year of Our Lord 1614: with the Successe of Sixe Ships, That Went the Next Yeare 1615; and the Accidents Befell Him among the French Men of Warres (London, 1616) <http://digitalcommons.unl.edu/etas/4/> 〔E-text at University of Nebraska〕

The General Historie of Virginia, New England and the Summer Isles: Together with the True Travels, Adventures and Observations [, and a Sea Grammar], 2 vols. (London, 1624 [A Sea Grammar 1627]; rpt. Glasgow, 1907) <http://memory.loc.gov/cgi-bin/query/h?ammem/lhbcbbib:@field(NUMBER+@band(lhbcb+0262a))>  〔Library of Congress〕


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コメント 2

morichanの父

kaoru さま、nice ありがとうございます。
by morichanの父 (2010-02-09 10:15) 

tomatten

私もnice!したいと思ったのですがso-net blogユーザだけの機能のようなのでコメントで nice!!
by tomatten (2017-07-03 09:57) 

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