イニシアル(イニシャル) (3) 『ハックルベリー・フィンの冒険』 Initials (3) Adventures of Huckleberry Finn [モノ things]
以前テクスト & 装丁問題でとりあげた〔「ジーン・ウェブスターの父親による『ハックルベリー・フィンの冒険』の出版 The Publication of _Adventures of Huckleberry Finn_ by Charles L. Webster」、「チャールズ・L・ウェブスター社の『ハックルベリー・フィンの冒険』のちらしから本の装丁とかのはなしなど Flyers for Adventures of Huckleberry Finn」、あと久永内科の久永光造先生への言及がある「半分と四分の三 Half and Three-Quarter Bindings」〕、マーク・トウェインの『ハックルベリー・フィンの冒険』初版を、あらためてイニシアルの扱いという観点から眺めてみる。
初版の挿絵を描いた E. W. Kemble は、モーリちゃんの父がせこせこ数えたところたぶん174葉のイラストを挿入していますけれど、全43章のすべての最初のページで、イニシアルを含めて挿絵を描くという凝ったことをやっています〔1月6日記 これまちがっていました。各章の最初のページで第何章という文字と一緒に挿絵を描いているのは事実ですが、すべてのページでイニシアルを手書きしているわけではない。訂正記事書きま~す⇒〕。精確な事情は知りませんけれど、たぶんケンブルのイラストの配置を決めてから印刷のテクストを組んだのだと思われます。
前に載せた第1章の最初のページ――
Mark Twain, Adventures of Huckleberry Finn (New York: Charles L. Webster, 1885), p. 17 <http://www.archive.org/stream/adventureshuckle00twaiiala#page/16/mode/2up>
そしてオックスフォード大学所蔵のイギリス版初版の某Google によるE-text――
Mark Twain, The Adventures of Huckleberry Finn (London: Chatto and Windus, 1884), pp. xvi, 1 <http://www.archive.org/stream/adventureshuckl00unkngoog#page/n21/mode/2up>
"YOU" が落ちてます。
ちゃんとしたwイギリス初版の本文第1ページ――
イギリス版とアメリカ版では、テクストの組み版が異なることがわかります。1行目は "without you" まであるアメリカ版に対して、イギリス版は "with-" で終わっています。実際イギリス版は438ページあるのにアメリカ版は366ページでした。
で、問題の、発話に始まる章のイニシアルの扱いです。
ふたつしかないみたいなのですけれど、まず第7章――
“Git up! what you ’bout!”
そして第11章――
“Come in,” says the woman, and I did.
はい、こちらはちゃんとケンブルさんは引用符を書いているのでした。あと COME の OME のところがいわゆる small capital として大文字になっています。
こんな感じ――
“COME in,” says the woman, and I did.
文章の最初の1語ないし数語を大文字にするというのも古い習慣で、現在でも最初のパラグラフをインデント(字下げ)しない習慣と並んで、イギリスのほうに残っているといわれています。
とりあえず引用符に関して、このばらつきが、第7章のほうは章のあたまのイニシアルだから省略しちゃってもいいんじゃないみたいな意識から脱落が生じたものか、単に不注意なのか、そして11章では考えが変わってスモール・キャピタルの使用も含めてカチッとやってみたのか、単に気まぐれなのか、なんともわかりません。
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