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イニシアル(イニシャル) (4) 『ハック・フィン』の各章のはじまり Initials (4) [モノ things]

イニシアルは「モノ」なのか、悩ましいのですけれど、それはさておき、一昨日に貼った引用符入りの出だしを見ていて、なんかこれ手書きじゃないんじゃないか、と疑念が沸きました。ふつふつ。

拡大版をつくりました。――
Huckleberry,Ch.11L.JPG

  セリフのある字体です。セリフというのは台詞じゃなくて科白じゃなくて、文字のストロークの端に付けられたヒゲというか飾りというか楔(くさび)というか出っ張ったりくっついたりしている部分です(これがないのがサンセリフ)。――

Sans-serif_and_Serif-fonts.JPG
image: "Serif," Wikipedia <http://en.wikipedia.org/wiki/Serif>

  手書きでセリフを書くというのはありえないことではないです。けど、他の箇所の手書きの字と違いすぎるかも。というか、いろいろヴァラエティーをもたせているのかな、と最初は思っていたのですけど。ちょっと並べてみます。――

AdventuresofHuckleberryFinn,Ch.17.jpg

  In はサンセリフ。IN みたいに。あー、しかし Chapter という単語の文字は基本的にセリフなんですね。

AdventuresofHuckleberryFinn,Ch.18.jpg

  Co のCはセリフっぽいです。

AdventuresofHuckleberryFinn,ch.20.jpg

  THEYのTはセリフ。T みたいに(ちがうけど)。でも活字っぽくはなくていかにも手書きです。

AdventuresofHuckleberryFinn,Ch.25.jpg

AdventuresofHuckleberryFinn,Ch.28.jpg

AdventuresofHuckleberryFinn,Ch.41.jpg

AdventuresofHuckleberryFinn,Ch.7.jpg

  これは前に貼ったやつですけれど、CHAPTER XX という箇所のそれぞれの書き方も含めて、多様なデザインを試みているのですね。字体は必ずしも絵によって束縛されているとはいえないでしょう。

  そして、先の記事で、「初版の挿絵を描いた E. W. Kemble は、モーリちゃんの父がせこせこ数えたところたぶん174葉のイラストを挿入していますけれど、全43章のすべての最初のページで、イニシアルを含めて挿絵を描くという凝ったことをやっています」と書きましたけれど、すべての章で最初の文字のレタリングをやっているわけではなかったです。

  明確なのは第10章。――

Huckleberry,Ch.10L.JPG

  AFTER はセリフですけど、どうみても活字です。イニシアルが大きな字になっていないけれど、1語が大文字になっています。9章もやっぱり活字です。――

Huckleberry,Ch.9L.JPG

  I はセリフで、大きなイニシアルですけれど、手書きじゃないですね。で、順番が前後しますけれど、これが9章で、ひとつ上が10章、そしてつづく11章が "Come in," で始まる章だったのでした。

  ちなみにその次の12章はイニシアルは確かに手書きです。――

AdventuresofHuckleberryFinn,Ch.12.jpg

  イニシアルが活字と思われるのは、9、10、11章以外は33章。――

AdventuresofHuckleberryFinn,Ch.33.jpg

  ということで、発話で始まるふたつの章のうち、いっぽうは手書き(手描き)、もういっぽうは活字印刷というのが結論です(自信90パーセント)。もう一つの章の拡大図を載せます。――

Huckleberry,Ch.7L.JPG

  G の左上の二重のスジは引用符なのでしょうか。

Huckleberry,Ch.7LP.JPG

  ちがいますよね。ともあれ、木片を組み合わせてこしらえた趣きで、絵に不自然に溶け込んでいるのでした。この7章の凝った工夫と 11章のCはえらい落差があります。

  で、だとすると、引用符は出版社(ジーン・ウェブスターの父親のチャールズ・L・ウェブスター)の編集か印刷屋の判断ということになるのかと思います。それでも、9、11、33章は、活字のイニシアルを2行分の高さにするのが同じだとしても、いわゆる x-height (小文字のxの縦幅というか高さで、baseline と mean line のあいだの長さ。pとかq はbaseline の下に棒がはみでる (descender height) し、大文字とかf とかh とかは median を越えて x-height を上側にはみでることになります)の上に延びるか下に延びるかでヴァリエーションをこしらえていて、デザイン的な工夫があるように見えます(印刷屋の判断だけでは無理でしょう)。

  ところで11章のCはセンチュリーに似ているな、と思いましたけれど、センチュリーという字体(フォント)は1894年に雑誌の『センチュリー・マガジン』のからみでこしらえられたものだそうで、であるならば『ハック・フィン』の初版の出た1884-85年にはセンチュリー自体はなかったのでした。

C ←これがcentury

 

  


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morichanの父

couple さま、nice &ご訪問ありがとうございます。
by morichanの父 (2011-01-08 18:45) 

morichanの父

ゆとりOL さま、どうもありがとうございます。今年もゆとりある生活であるよう願っています。
by morichanの父 (2011-01-08 18:46) 

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