SSブログ

古い伝染病棟と新しい診療所 The Old Contagious Ward and the New Infirmary [Daddy-Long-Legs]

『あしながおじさん』1年生10月1日の、最初の手紙から1週間後、ジュディーからの2通目になる手紙に、部屋と建物の説明があって、ジュディーの部屋がある「塔」は、新しい診療棟ができるまでは伝染病棟だったということです。――

My room is up in a tower that used to be the contagious ward before they built the new infirmary.  There are three other girls on the same floor of the tower―a Senior who wears spectacles and is always asking us please to be a little more quiet, and two Freshmen named Sallie McBride and Julia Rutledge Pendleton.    (Century 25-26 / Penguin Classics 14)
(わたしの部屋はかつて新しい診療棟が建てられる前に伝染病棟だった塔の高いところにあります。塔の同じフロアにあと3人女の子がいます。メガネをかけてていつもわたしたちにどうかもう少し静かにしてちょうだいって言っている4年生と、あとは1年生がふたりで、名前はサリー・マクブライドとジュリア・ラトレッジ・ペンドルトンといいます。)

  「診療棟 infirmary」と「伝染病棟 contagious ward」 と、なんで呼び方が異なるのか、ちょっと気になっていたのですが、はっきりとはわかりません(19世紀後半の伝染病についてはコレラも含め調査開始中)。もっぱら伝染病だけ扱う施設がどうして必要だったのかしら。しかし、もしかすると、手紙のつぎの段落で、"After you've lived in a ward for eighteen years with twenty room-mates, it is restful to be alone." (Century 26 / Penguin Classics 15)(18年間 "ward" の中で20人のルームメートと暮らしたあとでは)というふうに、自分のいた孤児院の「収容施設」を指すべく、同じ ward という言葉を使って冗談をかますためにしかけられた工夫であるのかもしれません。 ( ward というのは、(病院の)特定患者のための病棟、あるいは(ふつう6人以上の)大部屋の病室、みたいなのが病院関係の意味ですが、刑務所の監房とか、救貧院とか養老院などの収容室という意味もあります。ここでは孤児院の収容室を指して、同じ ward という言葉を使っておるのだと考えられます。)

  記事「フロアの曖昧性 Ambiguous Meaning of the Story of the Floor」で書いたように、この塔は、おそらくジーン・ウェブスター卒業後の1907年にヴァッサー大学に建てられた新しい寮の建物の背後にあった9階建ての "Tower" をモデルにしていると考えていいのでしょうが、ヴァッサー関係を調べてみると、「古い診療所」があったのは最も古い建物であるメインビルディングでした。

  今日の午後、たまたま古いニューヨークタイムズを開いていたら、「新しい診療所」建設の記事が載っているのが目に留まったので、書き留め書き写します。――

VassarCollegeSecuresaGift(NewYorkTimes,October29,1899)p.15.jpg
The New York Times (October 29, 1899), p. 15

VASSAR COLLEGE SECURES A GIFT

Infirmary Building Is Presented by Mrs. Caroline S. Atwater.

POUGHKEEPSIE, Oct. 28.―Ground is to be broken on Monday on the Vassar College campus, the gift of Mrs. Caroline Swift Atwater of Poughkeepsie, a member of the class of 1877.  The infirmary is given in memory of Mrs. Atwater's father, Charles W. Swift, to whom the college owes much, not alone for his distinguished service on the first Board of Trustees, but because he is said, more than any other, to have influenced Matthew Vassar's decision to found a college for women.

    いずれヒマができたら全部訳すかもしれませんが、かいつまんでいうと、ポーキプシー市のヴァッサー大学のキャンパスで、独立した診療棟の建設のための土地の掘り起こしが始まった、という記事です。大学の創設時にマシュー・ヴァッサーに影響を与え、草創期の理事だったチャールズ・W・スウィフトの娘で、1877年の卒業生であるキャロライン・スウィフト・アトウォーター夫人が、父親を記念して大学に寄贈するのだということです。

  この新しい診療所は1900年に完成して、Swift Hall と呼ばれていたようです。現在の診療棟は1940年に造られた Baldwin Infirmary というみたいです。これは19世紀末から20世紀前半にかけての設計者たちとは違う人々によって違う意匠で建てられた最初の建物だったみたい(Karen Van Lengen and Lisa A. Reilly の Vassar College: Architectural Tour 110ページの記述によると)。

  ともあれ、1899-1900年というのは、ジーン・ウェブスターが2,3年生から3、4年生だったころですが、以前確認したように(「『あしながおじさん』の年代の確定 [2010/01/15]」)、この小説の物語は1910年前後に設定されているので、「新しい診療所」であったといえると思います。

  だいぶ前にひろった絵葉書は、このスウィフト・ホールなのね。――

Infirmary, Vassar College, Poughkeepsie, NY.jpg
image via epodunk.com <http://www.epodunk.com/cgi-bin/genInfo.php?locIndex=1476>

"Poughkeepsie, N. Y.  B??? Infirmary, Vassar College" と書いてあるようですが、??? のところが読めません。違う名前だったのでしょうか。20世紀とは思われない雰囲気です。

   同日夜11時付記 よく見直したら、BではなくてS で、ちゃんと Swift Infirmary と書いてあるのだとわかりました。それから、www.nypostcards.net というところのestore にも "Swift Infirmary at Vassar College, Poughkeepsie NY" というモノクロの絵葉書が出ていました――<http://www.nypostcards.net/ProductDetails.asp?ProductCode=n4941>。

//////////////////////////////////////

NYPL Digital Gallery | Results - vassar <http://digitalgallery.nypl.org/nypldigital/dgkeysearchresult.cfm?keyword=vassar> 〔infirmary は現在載っていないけれど、古い絵葉書や写真やメモラビリアが楽しい〕

 


nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。