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日本的霊性につきて (7) 日本的霊性 (鈴木大拙) "On Japanese Spirituality" by Suzuki Daisetsu [魂と霊 Soul and Spirit]

承前―〔日本的霊性につきて (6) 日本的霊性 (鈴木大拙) "On Japanese Spirituality" by Suzuki Daisetsu

日本的霊性につきて (5) 日本的霊性 (鈴木大拙) "On Japanese Spirituality" by Suzuki Daisetsu

日本的霊性につきて (4) 霊性と宗教意識 (鈴木大拙) "On Japanese Spirituality" by Suzuki Daisetsu

       7  浄土系思想

  浄土系思想、ことに真宗信仰の日本的霊性であることを知悉せんとするには、真宗という教団とそれを基礎づけている真宗経験とを、はっきり〔傍点 はっきり〕と区別する必要がある。この区別が十分に認識せられぬと、真宗信仰ほど日本的でないものはあるまいとの感じさえ可能であろう。浄土系の思想は、いずれも浄土三部経の所説に基づき、その所説は全くインド的だと断定せられるからである。しかしこれは物事の表面だけを見る人々の考えで、彼等の眼光は薄い紙の裏さえ見透すことができぬと言わなければならぬ。

  なるほど真宗教徒は、浄土三部経を所依〔ルビ しょえ〕の経典〔ルビ きょうてん〕としている。が、それならば真宗は何故にシナまたはインドで展開しなかったか。浄土教の起こりは、シナでは六朝時代だと思うが、それから今日に至るまで少なくとも千五百年を経過している。それにも拘わらず千五百年前の浄土教は、千五百年後の浄土教である。それから真宗的横超〔ルビ おうちょう〕経験および弥陀の絶対他力的救済観は生れなかったのである。これに反して日本では、法然上人が浄土宗を天台教義より独立させて一宗の面目を保たしめんとするや否や、彼の会下〔ルビ えか〕には親鸞聖人が出現した、そうして彼の所説に一大飛躍を与えているのである。鎌倉時代における日本的霊性の活動は、法然上人の浄土観にも止まるとを許さなかったのである。それは親鸞聖人を起〔ルビ た〕たたさなければ已まなかったのである。これは決して偶然の事象だと考えてはならぬ。日本的霊性でなければ、この飛躍的経験は浄土系思想の中に生れ出なかったのである。浄土系思想は、インドにもありシナにもあったが、日本で初めてそれが法然と親鸞とを経て真宗的形態を取ったという事実は、日本的霊性即ち日本的宗教意識の能動的活現に由るものといわなければならぬ。もし日本的霊性にしてただ受動性だけのものであったなら、こんなはたらきはなかったであろう。ただ外から渡来したとか輸入されたとかいうものを、そのままで受け収めたに過ぎなかったであろう。日本的霊性の目覚めそのことと、その目覚めに機会を与えた外縁〔ルビ げえん〕とは、別々にして考えなくてはならぬ。単に受入れるという受動性の場合でも、受入れる方に何か積極的なものを考えるべきであるが、今の場合、即ち真宗的信仰の横超経験の場合では、積極的ということだけではすまないのである。大いに有力な力のはたらき〔傍点 はたらき〕かけが、日本的霊性の中から出たと断定しなくてはならぬのである。このはたらき〔傍点 はたらき〕が浄土系思想を通して表現されたとき、浄土真宗は生れた。真宗体験は、実に日本的霊性の発動にほかならぬのである。それが仏教的構想の中に出たということは歴史的偶然であって、その本質の日本的霊性なることを妨げるものではない。

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『日本的霊性』 緒言 一 日本的霊性につきて・・・・・・1 「精神」の字義・・・・・ 2 霊性の意義・・・・・・ 3 霊性と文化の発展・・・・・・ 4 霊性と宗教意識・・・・・・ 5 日本的霊性・・・・・・ 6 禅・・・・・・ 7 浄土系思想・・・・・・ 8 禅と浄土系――直接性

   なんで浄土系(それも禅よりも、という感じで)なのか、というのは本論によるしかないのだけれど、一般化していうなら、他者の宗教ではなくて自国民の宗教を語るとなると、自らの信条の問題も含め容易なことではないのでしょう。戦争を経て神道について語ったこととか、興味あるのですけど。


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