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いいじゃないの幸せならば (1) Wot's the hodds so long as you're 'appy? [Daddy-Long-Legs]

『あしながおじさん』の2年生の3月5日の手紙で、Judy は、もう二度と落第点を取ることはないけれど1年生のラテン語と幾何の成績が悪かったので優等で卒業はできないかもしれない、でも気にしません、と言ってヘンな英語を書いているところがあります。

I never told you about examinations.  I passed everything with the utmost ease―I know the secret now, and am never going to flunk again, I shan't be able to graduate with honors though, because of that beastly Latin prose and geometry Freshman year.  But I don't care.  Wot's the hodds so long as you're 'appy?  (That's a quotation.  I've been reading the English classics.) 〔・・・・・・いいじゃないの幸せならば? (これは引用です。英文学の古典をこのところ読んでいるのです。)〕

  古典にナマった英語が使われないわけではない。ですが、とりあえずのオカシサは、いかにもクズレタ英語を「引用」して、日本風にいえば「国文の古典です」と説明するところにあるでしょう。ちなみに新潮文庫の松本恵子訳は「「身の幸(さち)ありせば、何をか申しはべらん」です(これは目下勉強中の古典からちょっと引用してみたのです)。」と、引用符に入れたうえで古文風に訳しています。しかし・・・・・・一般にどの言語においても方言が古語を保存するとはいえ、ちょっと違うトーンの英語です、原文は。
  
「いいじゃないの幸せならば」は1969年発表の佐良直美の歌の題ですけれど(作詞は岩谷時子)、なまり度からすれば、ええじゃなかっぺ、ひやあせならば、ぐらいでしょうか(ちがうわw)。
  「標準」的な英語にすれば、 What's the odds so long as you are happy? となります。 odds=difference (差異)で、What's the odds? は、「どうでもいいじゃない」「それがどうした」「大差ないよ」ぐらいの口語的表現。hodds といらぬところに "h" が付加され、'appy といるところから "h" が脱落しているのは、イギリスの、コックニーみたいなロンドンなまりの特徴でありましょう。
  この出典は、むかし調べたことがあって、Rudyard Kipling の短篇小説 "Black Jack" ではないかと考えていました。Mulvaney Stories [アメリカ版はPhiladelphia: H. Altemus, 1897 <http://www.archive.org/details/mulvaneystories00kipl> ] 所収)――

    “I’m an ould fool,” said Mulvaney, reflectively, “dhraggin’ you two out here bekaze I was undher the Black Dog—sulkin’ like a child.  Me that was soldierin’ when Mullins, an’ be damned to him, was shquealin’ on a counterpin for five shillin’ a week—an’ that not paid!  Bhoys, I’ve took you five miles out av natural pervarsity.  Phew!”
   
Wot's the odds so long as you’re ’appy?” said Ortheris, applying himself afresh to the bamboo.  “As well ’ere as anywhere else.”
   
Learoyd held up a rupee and an eight-anna bit, and shook his head sorrowfully.  “Five mile from t’Canteen, all along o’ Mulvaney’s blasted pride.”                                                        

      キプリングの名は『あしながおじさん』の1年生のときの手紙(12月19日付)に出てくるので、自然と思われ。それでも、hodds じゃなくて odds となっているのは気にはなっていました。
  ところが、新しい岩波少年文庫の訳には割注があって、ジョージ・ルイス・パルメラからの引用だ、と書かれています。上に書いたように「古典」というのは冗談半分であるとしても、誰よ、パルメラって?  そんな英米作家は知りません。英語のつづりに適当に直して検索をかけてみて、George Lewis Parmella Busson du Maurier (1834-96) のことだとわかりました。なんだ
George Du Maurier か。『レベッカ』で有名な Daphne Du Maurier のじいさんの、フランス生まれの画家・小説家です。
  それならば、別筋で調べていた "Black Jack" の注釈に挙がっていました――

[Page 94, line 11] ‘Wot’s the odds so long as you’re ‘appy ? a catch-phrase that appears in “Trilby” (1894) by George du Maurier (1834-1896) artist and novelist. It must, however, have originated earlier as Kipling is writing in 1888. It is also quoted in “In Ambush” (Stalky & Co page 18, line 1) where - in this Guide - our Editor, Isabel Quigly, notes the apparent anachronism of a quotation from a play of 1894 appearing in a story set in the period 1878-1882. <http://www.kipling.org.uk/rg_blackjack_notes_p.htm>

  この注釈の記述が「キャッチフレーズ」とか「引用」と呼ぶ、その呼称がはたして正しいか疑問があるのですけれども、小説『トリルビー』(これの1915年のサイレント映画化――邦題『モデルの生涯』――については佐々木亜希子の活弁シネマライブに解説があります <http://www.slowcinema.com/pc/060801.html>)に出てくるのは次の箇所です。――

WS001072.JPG

    [W]hat's the odds, so long as you're happy?  ぜんぜんナマッておらんじゃないの。

   謎をはらんでつづく~


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