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ダディーロングレッグズ (1) Daddy-Long-Legs [Daddy-Long-Legs]

作品のタイトルにもなっている「ダディーロングレッグズ」とは、ジュディーが最初の手紙、つまり1年生の9月24日に書いた手紙のなかで説明するように、相手のことで知っていることは 1)背が高い、2) 金持ち、3) 女の子が嫌い、の3点であり、うち2) と3) は不適切なので1点目の不変の特性を採用して "Dear Daddy-Long-Legs" と呼ぶことにしたもので、リペット院長には秘密の愛称だということになっています。

     [. . .]  There are just three things that I know:

      I.  You are tall.
     II. You are rich.
    III. You hate girls.

      I suppose I might call you Dear Mr. Girl-Hater.  Only that's sort of insulting to me.  Or Dear Mr. Rich-Man, but that's insulting to you, as though money were the only important thing about you.  Besides, being rich is such a very external quality.  Maybe you won't stay rich all your life; lots of very clever men get smashed up in Wall Street.  But at least you will stay tall all your life!  So I've decided to call you Dear Daddy-Long-Legs.  I hope you won't mind.  It's just a private pet name―we won't tell Mrs. Lippett.  (Penguin Classics, pp. 13-14)

  ジュディーが相手(あしながおじさん)に秘密にしているのは、冒頭の「ブルーな水曜日」で語られるエピソードで、そのとき、院長に呼び出されたジュディーは、待っていた車に手を振る帰りがけの背の高い評議員の影が長く伸びて壁に映り、その手足がグロテスクに伸びたさまが "daddy-long-legs" のようだと思って、思わず笑ってしまう。そして、その人こそが自分を大学へやらしてくれる人だとリペットさんとの会談で知るわけです。

Jerusha caught only a fleeting impression of the man―and the impression consisited entirely of tallness.  He was waving his arm toward an automobile waiting in the curved drive.  As it sprang into motion and approached, head on for an instant, the glaring headlights threw his shadow sharply against the wall inside.  The shadow pictured grotesquely elongated legs and arms that ran along the floor and up the wall of the corridor.  It looked, for all the world, like a huge, wavering daddy-long-legs.  (p. 7)

    3点のうち金持ちというのと女の子嫌いというのは、リペット院長がジュディーに、いわば植えつけた印象なわけですが、ジュディーはあくまで自分の印象から秘密の呼び名をこしらえた、と言うこともできます。

    以上はあらすじ的な説明ですが、さて、この、最初にジュディーが手足の長い様子をたとえた "daddy-long-legs" とはどんな生き物なのでしょう。

  "daddy-long-legs" は、1年生の7月のロック・ウィロー農場から書いた手紙のなかで、挿絵入りで言及されています。"Dear Daddy-Long-Legs" と頭書きだけ書いたところで、夕食に添えるブラックベリーを摘み忘れていたのに気づき、便箋を置いたままにして、次の日に戻ってみると、紙の上にほんもののダディーロングレッグズがいたのでした ("A real true Daddy-Long-Legs!" [p. 48])。

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Century, 1912 初版, pp. 101-102

  東健而はこれを、双方の箇所で「蚊とんぼ」と訳し、タイトルも『蚊とんぼスミス』としました。

  遠藤寿子 ([1933,] 1961) は、「メクラグモ」と「あしながぐも」。〔「訳者あとがき」では、前に引用したように「原題 "Daddy-Long-Legs" というのは、アメリカではたいへん足の長いクモのこと」との説明〕

  松本恵子 (1954) は「足長とんぼ」と「あしながおじさん[ルビ: ダディ・ロング・レグズ]割注: *かがんぼ [sic])」。

  厨川圭子 (1955) は「大蚊[ルビ: ががんぼ]」と「本物の「あしながおじさん」(大蚊[ルビ: ががんぼ)」。

  中村佐喜子 ([1966,] 1970) は「あしながぐも [ルビ: ダディ・ロング・レグス]」と「正真正銘のダディ・ロング・レグス」。

  野上彰 (ポプラ社、世界の名著21, 1968) は「あしながぐも」と「あしながぐも」。〔「解説」で、「ダディ=ロング=レッグズは別名、あしながぐものことです。夏、軽井沢あたりでよく見かける、黒い丸い頭のまわりに、ふしのある細い長い足が八本はえていて、どちらへでもすたすたかけだしていく、ユーモラスな虫がそれです」との説明〕

  坪井郁美 (福音館, 1970) は「足長グモ」と「正真正銘のアシナガグモ」。

  恩地三保子 (1975) は「ガガンボ」〔尾注が付されていて、「足がながく、蚊を大きくしたような形の昆虫で、血はすわない。カトンボともいう。」(p. 303)〕と「正真正銘のあしながおじさん、ガガンボ」。

  谷川俊太郎 (1988) は「アシナガグモ」と「アシナガグモ」。

  早川麻百合 (1989) は「アシナガグモ」と「アシナガグモ――正真正銘のあしながおじさん[ルビ: ダディ・ロング・レッグズ]」。

  岡上鈴江 (1989) は「足長のめくらぐも」と「ほんとうのあしながおじさんなんです(ガガンボ)」。

  木村由利子 (集英社、少年少女世界名作の森8, 1990) は「ふつう「足ながおじさん」とよばれているががんぼ」〔次ページに注があり、「ガガンボ科とヒメガガンボ科、それに近い何種類かのこん虫全体をよぶ名前です。どれもカ[「カ」に傍点]ににていますが、それよりもかなり大型です。足が長くとれやすいのがとくちょうで、広く世界じゅうに見られます。カトンボともいいます。」と説明があり、図版を付す〕と「本物の足ながおじさん」。

  瀬戸武雄 (1991) の注は「足長トンボ,ガガンボ」。

   疲れたので明日の (2) へつづきますぅ~。

   あ、いや、それでは引っ張りすぎの感がまぬかれないので、薀蓄はあとまわしにして、図だけウィキペディアから引いておきます。ガガンボ(カトンボ、アシナガトンボ)とザトウムシ(メクラグモ)。

492px-CraneFly.jpg
ガガンボ image via Wikipedia 「ガガンボ」

Yumihigezatou_male_sp.jpg
ユミヒゲザトウムシ image via Wikipedia 「ザトウムシ」

 

  

 


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