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アシナガトウサン――ダディーロングレッグズ (2) Daddy-Long-Legs [Daddy-Long-Legs]

アシナガトウサンと呼ばれる生物はいない。でもアシナガグモと呼ばれるクモはいるようですけれど、それはアシナガオジサンとして翻訳書で言及されているものとは別種の生き物です。

ダディロングレッグズ (1の増改版) Daddy-Long-Legs」の続きです。

  日本語のほうから攻めていくと、ガガンボ=カトンボで昆虫です。蚊でもないし蜻蛉でもないです。でも羽が生えています。昆虫だから6本足です。そして、ザトウムシ=メクラグモで、クモに似た、でもクモではないムシです。でも8本足で昆虫ではありません。羽も生えていません。どちらも足は長くて、つまもうとすると、足を切り離して逃げていく、という性質は共通しています。

  英語のほうから整理してみます。 "daddy-long-legs" を英和辞典で引くと、『リーダーズ英和辞典』では "daddy longlegs" として「*[《米》の意]メクラグモ (harvestman) 《俗称》;ガガンボ (crane fly) 《俗称》;[joc] 足の長い人,足長おじさん」と記載されています。『ジーニアス英和大辞典 (Unabridged Genius)』だと、"daddy-longlegs, daddy longlegs" を見出しとして、《略式》つまりインフォーマルな呼称として、「1 《米》〔動〕ザトウムシ (harvestman).  2 《英》〔昆虫〕ガガンボ (crane fly)」と書かれています。

  そして、さらに、何語であれ、細かい動植物名はふつうの辞典には網羅されないのがふつうなわけで、英語の百科事典的なものも調べてみると、つぎのように、"daddy longlegs" (さらにそのヴァリアントとして、daddy-long-legs, daddy long legs, daddy longleggers さらに granddaddy longlegs 〔足長爺さん〕など)は、3種類の動物(ムシ)を指しうる言葉だということがわかります。

1.  昆虫で crane fly (日本で言うガガンボ、俗称カトンボ、アシナガトンボ)――Tipulidae

2.  クモで cellar spider (日本のアシナガグモと近い種類)――Pholcidae のとくにPholcus phalangioides を呼ぶ俗称。

3.  クモのようだけどクモではない harvestman [=harvester, harvest spider] (日本でいうメクラグモ、ザトウムシ)――Opiliones

  2番目のクモの仲間は、前の記事に画像もアゲていなかったので、あげておきます――

800px-Pholcus_phalangioides_6908.jpg 
Pholcus phalangioides image via Wikipedia, "Pholcus phalangioides" (cellar spider; skull spider)

    これは胴長はメスは9ミリほどでオスはそれより小さく、足は胴体の5倍ほどあり、メスの場合全長7センチくらいにもなるようです。英語の一名 "skull spider" (「ドクログモ」)ですが、日本では幽霊ぐもともいうみたい――tangorin.com

  いまのは英語のウィキペディアですが、日本語のウィキペディアの「アシナガグモ」に載っている画像は、近縁種のシロカネグモ (Leucauge) だけで、こういうクモです(まあ、ようするにいずれも種類が多いのですけれど)。――

Leucauge_venusta.jpg
Leucauge vanusta image via Wikipedia 「アシナガグモ」 (シロカネグモ)

  それで、アシナガグモの仲間は、直接捕獲することもあるようですが、ともかく糸を吐くクモです。

  3番目のクモのようだけどクモではないというのが、ジュディーが描いている daddy-long-legs ですけれど、"arachnid" の一種です。 "arachnid" というのは、ギリシア語の arakhne (=spider) に由来するのだから、クモ科(-id は、その科に属する動物を指す接尾辞です)なのだけれど、「蛛形(しゅけい)」類、クモ形類の節足動物を指すコトバです。ダニとかサソリもこの仲間です。そのarachnid のなかの opiliones が俗名 harvestman やdaddy-long-legs に該当するグループですが、でも種類は多くて、確かにダニみたいで、足の短いのもいれば、ジュディーが描いたように豆に長い足が8本生えたのもいます。harvestman というのは収穫時期に雇われる人のことですが、伸びる影の様子から来てるんですかねえ。

  で、ダニやサソリを出しておいてなんなんですが、daddy-long-legs と呼ばれるarachnid は、毒をもたず、糸も吐きません。さらに、クモとの違いは、頭、胴、尻がクモのようにも昆虫のようにも分節していないことです。イメジとしては、まったり・なごみ系(そんな系があるんけ)。ともあれ毒グモとは対極的です。"wavering" を曾野綾子は「もぞもぞした」と訳しているけれど、長い脚でふんばってふわふわ体が揺れる感じでしょう。

    非常におおざっぱに地理的にわけると、アメリカで "daddy-long-legs" というと 3)、イギリスだと1) 、オーストラリア、ニュージーランドだと2) みたいな感じですけれど、2) はアメリカでも太平洋岸、大西洋岸では "daddy-long-legs" と呼ばれるクモとしているみたい。

    日本語ウィキペディアの作品『あしながおじさん』を扱う記事「あしながおじさん」は、「概要」で「原題の"Daddy-Long-Legs"とはクモに縁の近い小動物であるザトウムシ」とちゃんと記していますが、続けてガガンボをカッコに入れているので、ちょっと confusing です――「原題の"Daddy-Long-Legs"とはクモに縁の近い小動物であるザトウムシ(ガガンボ)のことで、作品中にもこの蜘蛛に似た虫が登場している。」

  ま、ということで、なかなか混乱がおさまらないようです。コトバとモノについてなんか書こうと夢見ていたのですけれど、大人気ない理屈を垂れそうなので、それはいずれ。

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メモ的url

「『あしながおじさん』 ジーン・ウェブスター 松岡正剛の千夜千冊・遊蕩篇」 <http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1308.html>

「あしながおじさん」 Wikipedia <http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%82%E3%81%97%E3%81%AA%E3%81%8C%E3%81%8A%E3%81%98%E3%81%95%E3%82%93>

日本の長野あたりの daddy-long-legs について――
「ザトウムシ」 <http://riverwalkers.jugem.jp/?eid=277> 〔Riverwalkers さんのブログ『SST'S フィールドスケッチ――Flyfishing field note』 2006.12.9〕

あらためて英語Wikipedia の "Opiliones" ["Harvestman"] <http://en.wikipedia.org/wiki/Harvestman>
 

 


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