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ジーン・ウェブスターの未刊行作品とやら  Pipes of Palestrina (an unpublished comedy)  [Daddy-Long-Legs]

新潮文庫その他の "Asa" という幻のジーン・ウェブスター作品の元になったと考えられるアメリカのリプリント版 Grosset & Dunlap 社の "Introduction" の最後の書誌には、おまけに未刊行の Pipes of Palestrina (an unpublished comedy) というのが付いていました〔「『あしながおじさん』 Asa の謎 Asa Mystery」参照〕。

  これも気になって、調べました。Asa 同様難航しましたが、結論的には、これも誤記でした。正しくは、The Pigs of Palestrina というのでした(ヴァッサー大学のWebster Papers 案内 <http://specialcollections.vassar.edu/findingaids/mckinney_webster.html>参照: Folder 9 と Folder 10)。1912年ごろに集中的に執筆していたようです。誰がイントロ書いたかわからんわけですけれど、Pigs → Pipes という変化は、なにゆえなのでしょう。Asa (a play) については As above (a play) かな、と推測しましたけれど、可能性としては As a play → Asa a play → Asa (a play) というのも考えられます。実際、"asa a play" で検索をかけると、誤ってa をas につけてしまったテクスト(ぜんぜん無関係)がありうることがわかります。

  asa a という a のダブりは、きわめてワープロ的・タイプ的な間違いだと思われ。

  それに対して Pigs が Pipes というのは、手書きの原稿を誤読した結果だと思われ。

  ちょっと興味がわいたのは、ひとつは編集者の責任的関与問題、もうひとつは原稿の形式の問題です。

  このGrosset 版は、ハードバックとはいえ、そして10ページの序文が付いているとはいえ、一般向け廉価版だと考えられます。そういうとき無署名の序文に編集はどのように関与したのか(もちろん可能性としては編集部自体がイントロをまとめたということも考えられますが)。個人的に若干の名物編集者を知っているのですけれど、いろいろなタイプがいるとはいえ、優秀な編集者は、著者が不確かなところもちゃんと調べて、誤りがあれば著者(存命ならば)に打診し、直します。誤字誤植の訂正はもちろんです。・・・・・・というのは自分の個人的、ということはたかだかここ二三十年の印象です。けれど、でもなんか、少なくともむかしはアメリカ、日本とも、このAsa 問題についてはユルかったのね。

  ふたつめは、原稿って、とりあえず英米では、19世紀までは手書きだったけれど、19世紀末から20世紀になると、ヘミングウェイとかの写真が思い浮かぶように、原稿を作家がタイプで打つ、というのが一般化していくのかな、という印象があります。タイプ(ワープロ)で Pigs と打たれていたら、それはPipes と読み誤ることはないだろうし、Pigs をPipes とタイプで打ち誤るということもありそうになりのですが。そうなると、少なくともこの著作リストの部分は手書き原稿だったのかなあと。

  ちなみに『あしながおじさん』の物語の中では、ジュディーは手書きの原稿をいくつかの出版社に送ります。送り返された原稿を読んで、たまたまロックウィロウ農場に滞在中のあしながおじさん(かとんぼスミス氏、というかジャーちゃん、というかジャーヴィス・ペンドルトン)はひとつを自らタイプ原稿として打ち直し、別の出版社に送る。そして、それが採用されることになります。――2年生の8月のエピソードです。その夏「短篇小説6つと詩を7編」書いたジュディーは、雑誌社に送る。どれも速やかに送り返される。ジャーヴィスは、郵便を受け取る係だったので(というのが理由ですが)、全部を読みます。そして、どれも自分が何を描いているかわかっていなくてだめだけれど、大学生活を描いたスケッチ風の短篇だけは悪くない、と言って、タイプに打つわけです。それが採用されて50ドルをジュディーは受け取ります。キオスクで発売中、といってタイトルをジュディーは9月の手紙で示します――「二年生が試合に勝ったとき」。タイトルから推して、前年の11月12日のバスケット・ボールの試合のことを書いた短篇小説なのでしょうか。あるいは5月4日の運動会のことを書いたものなのでしょうか。断定できず。手紙の内容の充実度からすると後者かもしれませんが、なんとも。

  なんでタイプで打ったのかとか、実はなんかテクストに改変がひそかに加えられたのではないか、とか想像をたくましくする人もいるのかもしれないけれど、もっとあっさりと、(1) 送り返された原稿には出版社の編集者による書き込みがあって再利用再送付不能だった、 (2) タイプ原稿は印象がよい、という事情かもしれません。テクストにジャーヴィスによる手が加えられていたなら、ジュディーは腹立ててるでしょうしね、性格的に。

  あと、未発表、未刊行の原稿はかなりあるようですね。小説の戯曲化というのも『あしながおじさん』以前にいくつか試みているようですし。

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Guide to the Jean Webser Papers, 1876-1982 (bulk 1900-1916) <http://specialcollections.vassar.edu/findingaids/mckinney_webster.html>


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