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ロング・ジョンとジョン・スミスの脚 Legs and Long John and John Smith [Daddy-Long-Legs]

『あしながおじさん』のヒーロー、ジャーヴィス・ペンドルトンが騙るジョン・スミスという名前は、日本で言えば山田太郎や鈴木一郎みたいな、姓・名ともにのっぺらした名前で、あからさまな虚偽性に反発してジュディーは、1年生の最初の手紙で、ジョン・スミスはないやろー、もうちょっと個性のある名前をどうして選ばなかったの、とか書くわけです。―― "But how can one be respectful to a person who wishes to be called John Smith?  Why couldn't you have picked out a name with a little personality?  I might as well write letters to Dear Hitching-Post or Dear Clothes-Pole." (Penguin Classics 13)

  いっぽう John は 、ジュディーの頭のなかではJohn Grier Home と作為的に重なって、イヤな名前かもしれません。が、Jervis や Judy たちと J で響きあってもいます。

  ところでジャーちゃんとジョン・スミスが似ていることは、――スミスシマルハゲみたいな妄想を振り払いつつ――ジュディーによって何度も示唆されています。1年生の5月30日の手紙で、初めてキャンパスにやってきたジャーヴィスに触れて、"in short (in long, perhaps I ought to say; he's as tall as you)" (40) と書きますし、2年生8月にジュディーのいるロック・ウィロー農場にやってきたジャーヴィスについて、"that great, big, long-legged man (he's nearly as long-legged as you, Daddy)" (83)  と、やっぱりダディーと比べて、同じくらい足長だと書いています。カッコの中に入っているところが怪しいです。読み返してみて、ジュディーはまだ二人が同一人物とは気づいていないと結論しましたけれど、読者はどうか。読者への作者からのヒントであるかもしれません。単に「背高」ではなくて「足長」とまでいっているところがヤバイ感じもします。

  さて、『宝島』についての手紙の冒頭で、ジョン・スミスは "Cap'n Long-Legs!" と呼びかけられます (86; Century 初版で 100)。

WS000227.JPG

   この手紙の終わりのほうは、実名を知らされないでいることに対する愚痴がまた出てきます。このあいだ訳したので手紙の日本語訳をのっけます。――

船やああい、ロング・レッグズ船長!
 止まれー! それでよーし! よー、ほー、ほー、ラム一本だ。何を私が読んでいると思います? この二日間というもの私たちの会話は海事・海賊関係のことばでいっぱいでした。『宝島』って本当におもしろくないですか? この本を読んだことがあるでしょうか、それとも子供の時分にはまだ書かれていなかったかしら? スティーヴンソンは雑誌連載してたった30ポンドしか得られなかったのです――偉大な作家になってもあまりもうからないみたいですね。学校の先生になろうかしら。
 手紙がスティーヴンソンだらけになってしまいごめんなさい。私の頭は目下スティーヴンソンでいっぱいです。ロック・ウィローの書庫を構成しているのはスティーヴンソンなんです。
 この手紙には二週間かかっていて、ちょっと長すぎるかなと思います。けれども、ダディー、細かいことを書いていないじゃないかと決して言わないでください。  あなたもここにいらしたらいいのに、と思います。そうすればみんな一緒に楽しい時を過ごせるでしょうに。私、自分のお友達同士が知り合いになってもらうのが好きです。  ペンドルトンさんに、ニューヨークであなたを知っているか聞いてみたかった――知っているかもしれないです。あなたはきっと同じような上級の社交界に出入りしているにちがいありませんから。そうして、あなたもジャーヴィスさんも社会改良などに興味をもっていますし――けれども、尋ねることができませんでした。だって本当の名前を知らないのですもの。
 名前を知らないなんて、こんな馬鹿みたいなことがあるでしょうか。リペット夫人があなたは変なおじさんだって私に注意しましたけれど、ほんとうにそうだわ!
                            愛情深い ジュディー
 追伸 読み返してみると、全部がスティーヴンソンではないですね。ジャーヴィー坊ちゃまがちょこっと出ています。

  『宝島』に出てくる船長といえば誰でしょう。いえ、何人もいるのですけれど、いちばんの海賊船長。ヒント・・・・・・頭文字J . S. 

   ジョン・シルヴァーです。はじめ「一本足の船乗り "the sea-faring man with one leg" ; "the one-legged sea-faring man"」 (5, 6, 8, 12, 21) と言及される謎の人物ですが、主人公のジムは、トリローニーが手紙に書いてきたロング・ジョン・シルヴァーという片足の人物がその人ではないか、と不安を覚える (I had taken a fear in my mind that he [Long John] might prove to be the very one-legged sailor whom I had watched for so long at the old 'Benbow.'" [60])・・・・・・。やがてロング・ジョンはキャプテン・シルヴァーと呼ばれるようになる。

   ロングとジョンとレッグがふたつのテクストで連鎖するのは偶然なのでしょうか。まぁ、偶然かもしれません。でもジュディーの頭の中かジーン・ウェブスターの頭の中で交錯が工作されていると考えてみるのもおもしろいかなあと。

  冒頭のジョリー・ロジャー図は、『宝島』を暗示すると同時に、すぐあとの宛名 "Cap'n Long-Legs" のシルシのようにも見えますし、だとすれば、スミスを海賊としていることにならないでしょうか。

   


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Cecilia

私の「あしながおじさん」の記事にniceをありがとうございます。
非常に学問的な香りの漂うブログに惹かれて旧ブログのほうも少し拝読させていただきました。
最近多忙で自分の記事をアップするので精一杯で常連の方のブログにもなかなかコメントができなかったりしますが、こちらのブログも楽しみにさせていただきます。
ジャーヴィー坊ちゃま、大好きです。
by Cecilia (2009-10-15 09:10) 

morichanの父

Cecilia さま。ご丁寧にありがとうございます。またご訪問します。
by morichanの父 (2009-10-15 15:11) 

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