評論社の英文世界名作シリーズ "Masterpieces for Young People" Series, Hyoronsha [ひまつぶし]
『あしながおじさん』の邦訳がおおむねだんだん集まったのとともに、注釈書の類を探してしまう、という蒐集癖が少しだけムクムクと頭をもたげていた夏でした。 それで、あまぞんの検索で、一冊1万円以上というアホみたいな値段がついている絶版の注釈書の存在は知っていたのです。あ゛ー、これです。まだ出てます――「脚ながおじさん (上巻) (ニュー・メソッド英文対訳シリーズ (C-1)) 竜口 直太郎、ジーン ウェブスター、 Jean Webster (- - 1995/11) 2 点の全新品/中古商品を見る ¥ 11,999より」。このあいだ、同じ出版社の同じ注釈者の本(でも違うシリーズらしい)が、10分の1以下の価格で出ていたので、買ってみました。そうしたら、なんとー、この夏本棚から出てきたメルヴィルの『避雷針売りの男』と基本的に同じシリーズだったのでした。
龍口直太郎・清水良雄共著『あしながおじさん』(評論社、英文世界名作シリーズC-2、昭和43年11月30日初版発行; 昭和60年5月30日初版3刷発行: ISBN4-566-04306-1) 53pp.+別冊28pp. 400円
尾川欣也訳注・H. メルビル『避雷針売りの男 ほか』(評論社、[英文]世界名作シリーズ50、昭和50年4月30日発行: ISBN記載なし) 85pp.+実力テスト1枚[?]. 350円
英文世界名作シリーズというのは、「くわしい脚注・全訳つき」で、レベルが、「[A] = 中学上級~高校初級」、「[B] = 高校中級」、「[C] = 高校上級以上」と3段階に分かれた、(往時の中高生の使用を考えれば)副読本ないし自習本のシリーズです。
初版の刊行年は後ですけれど、ISBNの慣行以前に刊行されている『避雷針売りの男ほか』の巻末の広告を見ると、つぎのようなラインアップです。――
それぞれの頭の数字は、ABCをとおした通巻番号で、まあ、順調に出版されれば刊行順の番号でもあるのかもしれません。ひまつぶしに書き取ってみます。
〔A〕
1 はだかの王様・魔法のバイオリン
5 赤ずきん・ジャックと豆の木
6 イワンのばか
10 日本おとぎ話I
11 イソップ寓話
12 フィフティー・フェイマス・ストーリーズ
13 マッチ売りの少女
15 幸福な王子
16 真夏の夜の夢・美女と野獣
17 オズの魔法使い
18 日本おとぎ話II
19 コーカサスの捕虜
〔B〕
2 クオレ・最後の授業
4 偉人の伝記
9 ふしぎな国のアリス
14 ハーンの怪談
31 ハムレット
32 ハーン 牡丹燈篭(ぼたんどうろう)
33 モーパッサン 告白 ほか
34 モーパッサン 首飾・二人の友
〔C〕
3 赤毛のアン・若草物語
7 あしながおじさん
8 狼王ロボ
46 O・ヘンリー短編選 二十年後 ほか
47 ディッケンズ 黒いベール・貧乏な親類のはなし
49 メルビル 幸福な失敗・バイオリン弾き
50 メルビル 避雷針売りの男 ほか
このころ――とりあえず昭和50年ごろまで――はABCをとおして番号が振られており、たとえば『避雷針売りの男ほか』は、表紙に「〔C〕 世界名作シリーズ50」と書かれ、Cの何番とは書かれていません。それと、「英文世界名作シリーズ」と表紙には書かれておらずに「世界名作シリーズ」であり、奥付も「世界名作シリーズ50 避雷針売りの男 他」ですが、この広告と、ジャケットの裏には「英文」がくっついて「英文世界名作シリーズ」となっています。
その後、おそらく昭和50年代に、ABCを貫通する通し番号がはずれて、ABCごとの番号が付されるようになったようです。たとえば『あしながおじさん』はC-2 です。
この方式であらためてシリーズを並べてみます。
〔A〕
A-1 1 はだかの王様・魔法のバイオリン
A-2 5 赤ずきん・ジャックと豆の木
A-3 6 イワンのばか
A-4 10 日本おとぎ話I
A-5 11 イソップ寓話
A-6 12 フィフティー・フェイマス・ストーリーズ
A-7 13 マッチ売りの少女
A-8 15 幸福な王子
A-9 16 真夏の夜の夢・美女と野獣
A-10 17 オズの魔法使い
A-11 18 日本おとぎ話II
A-12 19 コーカサスの捕虜
A-13 黒馬物語
A-14 人に必要な土地
A-15 母をたずねて
A-16 マザーグースのうた
A-17 かなえられたクリスマスの夢
A-18 ピノッキオの冒険
A-19 ドン・キホーテの冒険
A-20 船乗りシンドバットの物語
A-21 モウビィ・ディック(白鯨)
A-22 ピーター・パン物語 ほか
A-23 アリババと40人の盗賊
A-24 長靴をはいた猫
A-25 アメリカの民話
A-26 ロシアの民話
〔B〕
B-1 2 クオレ・最後の授業
B-2 4 偉人の伝記
B-3 9 ふしぎな国のアリス
B-4 14 ハーンの怪談
B-5 32 ハーン 牡丹燈篭(ぼたんどうろう)
B-6 31 ハムレット
B-7 33 モーパッサン 告白・復讐 ほか
B-8 34 モーパッサン 首飾り・二人の友
B-9 賭・田舎医師
B-10 ロミオとジュリエット
B-11 J.ニュートンとどれい売買
B-12 わが名はアラム(上)
B-13 わが名はアラム(下)
B-14 現代世界の偉業(上)
B-15 現代世界の偉業(下)
B-16 レ・ミゼラブル
B-17 英語ユーモア傑作選I
B-18 英語ユーモア傑作選II
B-19 旧約聖書物語
B-20 新約聖書物語
B-21 鹿狩・あの時分
B-22 波の音・青春の頃
B-23 雁・ポチ
〔C〕
C-1 3 赤毛のアン・若草物語
C-2 7 あしながおじさん
C-3 8 狼王ロボ
C-4 信号手ほか
C-5 46 O・ヘンリー短編選 二十年後 ほか
C-6 47 ディッケンズ 黒いベール・貧乏な親類のはなし
C-7 49 メルビル 幸福な失敗・バイオリン弾き
C-8 50 メルビル 避雷針売りの男 ほか
C-9 妻ゆえに
C-10 モルグ街の殺人
C-11 ジェイン・エア
C-12 シャーロック・ホームズの冒険
C-13 カンタビル邸の幽霊
C-14 模範的な百万長者
C-15 ヘンリー・ライクロフトの私記
C-16 修道士と絞首吏の娘
C-17 宝島(上)
C-18 宝島(下)
C-19 ラング動物記
C-20 アーサー卿の犯罪
C-21 ヘンリー・シュガーのわくわくする話
B-23 の『雁・ポチ』の「ポチ」と、C-21の『ヘンリー・シュガーのわくわくする話』とか、「なんやそれ」という感じで気になるのですけれど、それはともかく、高校生向けの参考書として、ハーマン・メルヴィルの短篇2篇が2冊採られているのがちょっと驚愕的なのでした(有名な『白鯨』はAに入っていますが、たぶん、こちらはリトールドではないかと想像され)。
C-7に入っている2篇――
"The Happy Failure" (Harper's New Monthly Magazine, July 1854)
"The Fiddler" (Harper's New Monthly Magazine, September 1854)
C-8に入っている2篇――
"The Lightning-Rod Man" The Piazza Tales (1856)
"Poor Man's Pudding and Rich Man's Crumbs" (Harper's New Monthly Magazine, June 1854)
いま、大学の英文科の学生も読まないだろうし、そもそも読めない(つまり読解英語力&感性がない)のではないか、と思われます。
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Harper's New Monthly Magazine, Volume IX (June to November 1854) <http://www.archive.org/stream/harpersnewmonth04unkngoog#page/n7/mode/1up> 〔Internet Archive〕
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