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『あしながおじさん――4幕の喜劇』 Daddy Long-Legs: A Comedy in Four Acts [Daddy-Long-Legs]

記事「『あしながおじさん』 Asa の謎 Asa Mystery」でつぎのように書きました。――

  そして、調べてみると、1914年というのは、ウェブスター自らが小説『あしながおじさん』の脚本を書いて舞台に乗せた年だったのでした。さらに最近調べたところではヴァッサー大学の "Jean Webster McKinney Papers" (McKinney というのはWebster が結婚してあらたまった姓です)という資料の Box 12, Folder 5 には、この芝居に関する作者の文書が保存されているようです。ただし、まとまった脚本として残っているのか不明です。少なくとも公に刊行された形跡は見当たりません。

  ペンギン・クラシックス版の序文で、エレイン・ショーウォルターは、ヴァッサー大学のウェブスター・ペイパーズには、各幕の記述と主要登場人物の要約が残されている、と書いています("Webster's papers at Vassar College contain her descriptions of each act and her summaries of the main characters." (xiv))。そうして、一人称書簡体という制約から解放されてジーン・ウェブスターは大胆かつ明確に意図を示すことができたのだ、と指摘しています。とりわけジュディーの天賦の才について――

While the "orphans as a body represent a dead level of mediocrity, the result of bad environment and in some cases bad heredity . . . Judy stands out in striking contrast."  She "rises out of the mass, original, resourceful, courageous. . . .  She emerges from her dark background, throws off the trammels that have bound her down and daringly faces life. . . .  There is an element of revolt in her nature, a spirit of fight which makes her a fierce little rebel against injustice." (Elaine Showalter, Introduction, Daddy-Long-Legs and Dear Enemy)
(孤児たちが、一団として、悪しき環境の結果、またある場合には悪しき遺伝による、凡庸の水準をあらわしているのに対して・・・・・・ジュディーは際立った対照を示す。」 彼女は「集団から上昇し、独創的で、才能にあふれ、勇気がある。・・・・・・彼女は暗い背景から現われて、自分を束縛していた拘束物を投げ捨て、勇敢に人生に向かう。・・・・・・彼女の性格には反抗の要素があって、その闘争精神により彼女は不正に対する激しい反抗者となる。)

  それで、ヴァッサーに行って資料を見せてもらうしかないなあ、と思っていたのですけれど、ところがところが、死後の1922年に、ニューヨークのサミュエル・フレンチという、この劇の上演権をもっていたらしい出版社が、脚本を出版しているのが見つかりました。

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Jean Webster, Daddy Long-Legs: A Comedy in Four Acts

   Daddy と Long-Legs のあいだにハイフンがないのが気になりますが、コピーライトのページには小説の1912年から上演の1914年もちゃんと並んでいます。――

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  第1幕の舞台はジョン・グリアー孤児院の食堂、第2幕は大学の寮内の部屋、第3幕はロック・ウィロウ農場の部屋、第4幕はジャーヴィス・ペンドルトンの書斎が舞台となっています。

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  冒頭の "Scene" のところに "A plan and full description of the scene will be found at the end of the play" と書かれていますが、確かに巻末に舞台見取り図とくわしい設定が記されています(ただし舞台の図面を見ても、『あしながおじさん』でなじみのジーン・ウェブスターのヘタウマ的な絵との類似はよくわからず。それに "Daddy Longlegs" と題が付されているので、たぶん別のひとによる図ではないかと思われ。いや、そんなこと言ったら、脚本の本文中でも "Daddy Long-Legs" となっており、テクスト自体がアヤシイです)。

  ジャーヴィス・ペンドルトンは第1幕から姿を見せます。そしてこの孤児院を舞台とする部分は、114ページある脚本の37ページまでが1幕であることからわかるように、けっこうな分量がありますし、ジャーヴィス以外の理事(例の、ジュディーの作文をおもしろがってジャーちゃんに教えた女性 Miss Pritchard)も2幕以降も登場します。この舞台の成功が、孤児院問題についての世論の高まりを呼んで、いっぽうでウェブスターは現実世界で自ら社会改良運動にさらにコミットしていきますし、もういっぽうで続編『続あしながおじさん Dear Enemy』 (1915) を書いて孤児院の問題&遺伝・環境問題を掘り下げることになったのではないかと思われます。

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  1914年の舞台でジュディー役をつとめたのは、まだ映画で活躍する前の、はたちそこそこのルース・チャタートン Ruth Chatterton, 1893-1961でした。大ヒットとなりニューヨークののち東部をまわり、カリフォルニアへ、さらにロンドン公演も行なっています。ヴァッサーの学生たちの要望により、ポーキプシーのオペラハウスで特別公演も行なったのだそうです(Showalter xiv)。

    ルース・チャタートン扮するジュディーは、センチュリー社のリプリント版のダスト・ジャケットに使用されました。――

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Jean Webster, Daddy-Long-Legs (New York: Century, n.d.)

  ううむ。初版を出した出版社のくせに、Daddy Long Legs と、まったくハイフンがないですねぇ。やれやれ。

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Jean Webster, Daddy Long-Legs: A Comedy in Four Acts [French's Standard Library Edition] (New York: Samuel French, 1922[?]) <http://www.archive.org/details/cu31924021717933> 〔Internet Archive〕; PDF (2.99 MB)

 


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