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茶と黄のシンフォニー Symphony in Brown and Yellow [Daddy-Long-Legs]

『あしながおじさん』1年生10月10日の手紙で、ジュディーは、部屋のようすを報告します。――

Do you care to know how I've furnished my room? It's a symphony in brown and yellow. The wall was tinted buff, and I've bought yellow denim curtains and cushions and a mahogany desk (second hand for three dollars) and a rattan chair and a brown rug with an ink spot in the middle. (Penguin Classics 16)
(わたしが部屋をどんなふうに模様替えしたか知りたいですか? 茶と黄のシンフォニーです。壁はバフ色〔淡黄褐色〕に塗られていましたので、わたしは黄色いデニムのカーテンとクッションとマホガニーの机(3ドルの中古品)と籐の椅子とまんなかにインクのしみがついた茶色のラッグを買ったのです。)

  「茶と黄色のシンフォニー」という言い方は、いろんな翻訳が採用している「調和」を確かに言っているのでしょうけれど(そして確かに辞書にも「調和的組み合わせ」「音の調和」「色彩の調和」とか書いてあるけれど)、もっと色のついた表現に思えてなりませんでした。もっとも、調和とか一致をいう、harmony にしても concord にしても、もとは音楽なのかもしれませんけど――(ウンチク的に書けば、concord の "cord" は heart で、symphony の "phony" は「インチキ」のphony とは無関係で sound, voice の意味です)。

  で、はじめデューク・エリントンなどのジャズに「なんたらの交響楽」とか「黒とタンのなんたら」とかあったか、ありそうな気がしてなにげに調べてみたりしたのですが、あったとしても時代的にアナクロです。

  共感覚とか、すべての芸術が音楽の状態をめざすとか、なんかそういう美学思想的な流れの中で流行したコトバなのだろうか、という妄想が頭をもたげたりもしますが、よくわかりません。

  いま、なんとなく関係がありえるかな、と考えているのは、アメリカ生まれでヨーロッパで活躍した画家のホイッスラーの、音楽用語を入れた一連の絵画作品です。日本語のウィキペディア「ジェームズ・マクニール・ホイッスラー」英語のウィキペディア "James Abbott McNeill Whistler" に、Symphony in White, No. 1: The White Girl 『白のシンフォニー第1番――白の少女』(1862) と、Nocturne: Blue and Gold - Old Battersea Bridge (『青と金のノクターン――オールド・バターシー・ブリッジ』)(1872) と Arrangement in Grey and Black: The Artist's Mother (『灰色と黒のアレンジメント――母の肖像』)(1871) などの絵が掲載されています。『白のシンフォニー第1番』については、サルヴァスタイル美術館 Salvastyle.com の azuma takashi さんの解説が詳しいです――<http://www.salvastyle.com/menu_impressionism/whistler_whitea.html>。ま、いろんな解釈が行なわれる絵のひとつであることは確かです。国書刊行会のゴシック叢書のウィルキー・コリンズの『白衣の女』の表紙に使われていたと思いますが、小説のタイトルは The Woman in White (1859-60) でした。

Whistler,SymphonyinWhiteNo.1.jpg
James Whistler, Symphony in White, No. 1: The White Girl 『白のシンフォニー第1番――白の少女』(1862), image via freeparking <http://www.flickr.com/photos/freeparking/521951974/>. (クリックで拡大)

Whistler,SymphonyinWhite-No.2.jpg
James Whistler, Symphony in White, No. 2: The Young White Girl 『白のシンフォニー第2番――若い白の少女』(1864), image via freeparking <http://www.flickr.com/photos/freeparking/537190852/>.(クリックで拡大)

   (うちわ持っちゃってます。日本趣味です。でもうちわの中の絵は妙に印象主義風に簡略化されていてよくわかりません。たぶん海と空を描いているみたいですが。)

バターシーの海をホイッスラーは好んで描きましたが、1865年ごろに描かれた絵には副題として "A Symphony in Brown and Silver" (「茶と銀のシンフォニー」)が付けられています。――

Whistler,OldBatterseaBridge(c.1865).jpg
James Whistler, Old Battersea Bridge: A Symphony in Brown and Silver (c. 1865)

  『パティーが大学生だったころ When Patty Went to College』 (1903) の第1章の冒頭で、4年になって割り当てられた部屋が気に入らないパティーは、友人のプリシラ(この子は『おちゃめなパティー』に描かれるように、聖アーシュラ学園から一緒に大学に進学したマブダチです)にハンマーを借りに走らせますが、そのあとの記述。――

   Patty, in the interval, sat down on the top step and surveyed the chaos beneath her. An Oriental rush chair, very much out at the elbows, several miscellaneous chairs, two desks, a divan, a table, and two dry-goods boxes radiated from the center of the room. The floor, as it showed through the interstices, was covered with a grass-green carpet, while the curtains and hangings were of a not very subdued crimson.
   "One would scarcely," Patty remarked to the furniture in general, "call it a symphony in color." (Century 5:太字強調付加)
(パッティは、ひと休みして、きゃたつのてっぺんに腰をおろした。そして、下の大混乱ぶりに目をやった。
  ひじがいやに外に張り出した東洋風のイグサのいす、いくつかのいろいろな形のいす、机がふたつ、ソファー・テーブル、それに部屋の中央から放射状におかれているふたつの布地入れの箱。
  そういったものの間から顔をのぞかせている床は、グリーンのじゅうたんでおおわれ、カーテンや壁掛けは、あまりおちつきのない緋色だった。
  パッティは、そのあたりいちめんにちらばっている家具にむかって、話しかけるようにいった。
  「だれだって、すてきに調和した色だなんていわないわよね」 (内田庶訳『おちゃめなパッティ 大学へ行く』(ブッキング、2004) 8

  こちらはなんだかふつうの言い方のように聞こえてしまいます。不思議だわぁ。


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