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ハンニバル・バルカはバールの愛するものであるか Hannibal Barca, Baal's Blessing [思いつき whimsical fancy]

前の記事「社会主義者ジュディー、社会主義者ジーン (3) Judy the Socialist, Jean Webster the Socialist (3)」 のフェビアンとハンニバルのからみで・・・・・・

思いつきです。書いているうちに、たいした思いつきではないと思い(つき)ましたw。

ハンニバル・バルカHannibal Barca紀元前247年 - 紀元前183年または紀元前182年)は、カルタゴの将軍。ハミルカル・バルカの長子。ハンニバルは「バアルの恵み」ないし「バアルの愛する者」を意味し、バルカとは「雷光」と言う意味である。〔「ハンニバル・バルカ」Wikipedia <http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%83%8B%E3%83%90%E3%83%AB>〕

  ハンニバルというと、マーク・トウェインが生まれて[2011.1.5訂正]少年時代をすごした(ということは『ハックルベリー・フィンの冒険』の背景にもなっている)南部ミズーリ州北東部のミシシッピ川沿いの田舎町がハンニバルです。でもこれはただの偶然であると思います、いちおう。思いつきとして考えたいのは、ジーン・ウェブスターがハンニバルという語の意味を知っていたかどうか、です。

  研究社の英和大辞典をみると、どうもイギリスでは Cornwall に多い男性名ということですが、語源的には Punic? からギリシア語→ラテン語を経て近代諸語に入ったらしい。で、原義は "favor of Baal" "Baal's blessing" です。

  Baal は英語だと 「ベイ(ア)ル」みたいな発音なのですけれど、バール神というのはセム人の自然神、とくにフェニキアの豊穣の神、ということになっています。Baal 自体はヘブライ語に由来するとされていて、原義は「所有者」「主」です。ですが、キリスト教文化においては「邪神」「偶像神」の代表的なもののひとつとされました。

  セム (Semitic) というのは広い概念なのでよくわからんのですが、セムに含まれるヘブライ語のなかで考えると、カナン地域でを中心に嵐と慈雨の神として崇められていたようです。

本来、カナン人の高位の神だったが、その信仰は周辺に広まり、旧約聖書列王記下などにもその名がある。また、エジプト神話にも取り入れられ同じ嵐の神のセトと同一視された。フェニキアやその植民地カルタゴの最高神バアル・ハンモンをモロクと結びつける説もある。さらにギリシアでもバアル(Βάαλ)の名で崇められた。足を前後に開き右手を挙げている独特のポーズで表されることが多い。〔「バアル」Wikipedia <http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%A2%E3%83%AB>〕

   ウィキペディアの「バアル」は、ソロモン72柱の魔神の1柱としてのバエルとか、「バアル・ゼブブ」(蝿のバアル=蝿の王)とか、エジプトの嵐の神のセトと同一視されたこととか、「フェニキアやその植民地カルタゴの最高神バアル・ハンモンをモロクと結びつける説もある」とか、またダゴンの子としてのバールとか、すべての神々の母アーシラトまたはアスタルト〔これはイシュタルとかアフロディーテ(つまりローマのヴィーナス)とかと同等視される豊穣と美の女神です〕の息子としてのバールとか、さらに、「コラン・ド・プランシー著『地獄の辞典』の挿絵では、ネコ、王冠を被った人間、カエルの頭をもった蜘蛛の姿で描かれている」とか、いろいろと混淆的に広がる知識を記述しています。英語のウィキペディアの "Baal" のほうが、さらにいろいろ書いてありますが、こちらのほうが奇妙に収斂するのは、Baal を "Satan" とする記述によってです。つまり、民俗的・文化人類学的バールというのと、キリスト教が「異端」「異教」として非正統的な思想を改編するなかでイメジ化されたバールというのは異なるところがあるのでしょう。

  偶像崇拝がユダヤ教によって批判される流れのなかで、さまざまな偶像による崇拝対象、とりわけ土地土地の精霊みたいなもの、がおしなべて baal と呼ばれたという事実が旧約時代にあったようです。

     Early demonologists, unaware of Hadad or that "Ba'al" in the Bible referred to any number of local spirits, came to regard the term as referring to but one personage.  Baal (usually spelt "Bael" in this context; there is a possibility that the two figures are not connected) was ranked as the first and principal king in Hell, ruling over the East.  According to some authors Baal is a duke, with 66 legions of demons under his command.
(初期の悪魔学者たちは、ハダード〔ハッドゥ。バールの元の名〕あるいは聖書の「バアル」が複数の土地の霊を指すことがわからず、ただひとつの存在を指すことばとみなすようになった。Baal (この文脈ではふつう "Bael" と綴られ、もしかすると両者は別のものである可能性もある)は、東洋を支配する、地獄の第一位の王と位置づけられた。一部の著者によれば、バールは公爵で、66のデーモン軍を支配下に置く。)
     During the English Puritan period, Baal was either compared to Satan or considered his main lieutenant. According to Francis Barrett, he has the power to make those who invoke him invisible.
(イギリスのピューリタン革命の時代に、バールは魔王セイタン (Satan) あるいは魔王の第一の腹心とされた。フランシス・バレットによれば、バールは呪文で呼び出す相手を見えなくさせる。)
  While the Semitic high god Ba'al Hadad was depicted as a human, a ram, or a bull, the demon Bael was in grimoire tradition said to appear in the forms of a man, cat, toad, or combinations thereof. An illustration in Collin de Plancy's 1818 book Dictionnaire Infernal rather curiously placed the heads of the three creatures onto a set of spider legs.
  (セム族の高位の神バアル・ハダードは人間、羊、あるいは牛の姿であらわされているが、デーモンとしてのバールは、グリモワール(魔術書・魔導書)の伝統においては、人間、猫、ヒキ蛙、ないしそれらの混合した姿をとってあらわれるとされた。コラン・ド・プランシー1818年の『地獄の辞典』の挿絵は、この三つの生き物の頭をクモの足の上にかなり奇怪なかたちで乗せている。〔"Ba'al" Wikipedia <http://en.wikipedia.org/wiki/Baal>〕

  その、クモの足に乗っている3重の頭というのが次の絵です。――

Bael.jpg
Dictionnaire Infernal illustration of Baal; image via "Ba'al," Wikipedia <http://en.wikipedia.org/wiki/Baal>

    蝿の王「バアルゼバブ」というのはミルトンの『失楽園』にも出てきて、そこではやっぱり「堕天使」でしたが、見た目イケメンとして描かれていました。コトバとしてはバールの尊称「バールゼブル」(高きバール)をもじった「バールゼバブ」(ハエのバール)が旧約時代のヘブライ人によって蔑称として唱えられたようです。でそのまんま「ハエ」として描かれることもあります(「ベルゼブブ」参照)。――

525px-Beelzebub.png
Beelzebub as depicted in Collin de Plancy's Dictionnaire Infernal (Paris, 1825); image via "Ba'al," Wikipedia <http://en.wikipedia.org/wiki/Baal>

  ハンニバルの父親は、もちろん邪神や悪魔を崇拝していたのではなかったのです。バルカという彼らの姓もバル=雷ということでバールとからむんじゃないかと思うんですが、ともかく、ハンニバルは父によって主神バールの加護と恩寵を受けるよう望まれてそのように名づけられたのでしょう。

  しかしローマにとってカルタゴはキリスト教以前に異教徒でした(Punic ポエニ というのは、カルタゴを指すローマ側からの呼び名です)し、キリスト教前に滅ぼされてしまいます。フェニキア人の人身御供の習慣は Tophet トペテというエルレサムのそばの地名とくっついて旧約聖書に記述されていますけれど(「エレミヤ書」7章31節)、いけにえがささげられたとされる異教神 Moloch とバールは同一視されることもあるわけです。さんざんです。そしてその後はみな悪魔ないし堕天使扱いです。

  えーと、文章をうまくしめてまとめないといかんのですが、思いつきですから、メモのままに。

  うーん。

  ひとつは、作品中の悪魔と天使がらみで何かつながらないかなー、ということです。それともちろんフェビアン協会的社会主義の問題。よくわからないですね(思いついたようで思いついてない、ということはよくあることです)。

  ちょっと視点を変えるなら、「大天使ミカエルが踏みつぶすものたち(1) Those Whom the Archangel Michael Treads (1)」で述べた踏みつぶされるものたちはほんとうに踏みつぶされるべきものたちなのか、ということもあるかもしれません。それはムシの問題でもあります、もしかすると〔「千本足パート2――脚の話 (5) Thousand-legged Worm, Part 2: Leg Stories (5)」参照〕。いえ、八本足をバールと結び付けたいわけではありません。

  実は作品中 devil というコトバは、2年生8月10日の手紙にしか出てこないし、それもトリの方言名なのでした。でもいちおう「天使と悪魔、天(国)と地(獄) Angels and Devils, Heaven (, Earth,) and Hell」参照。メモのついでに「煉獄と天国の関係はどういうものなのでしょうか The Heaven and the Purgatory」も参照。

  以上、とくに後半は私的メモになりました。はなはだまとまらぬ文章を読んでいただいた方、どうもありがとうございました。

 


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morichanの父

pcluxury さま、ご訪問ありがとうございます。
by morichanの父 (2010-03-16 22:50) 

morichanの父

perl さま、nice どうもありがとうございます。
by morichanの父 (2010-03-16 22:50) 

morichanの父

couple さま、nice なご訪問ありがとうざいます。
by morichanの父 (2010-03-16 22:51) 

morichanの父

kaoru さん、こんばんは~♪ どうもありがとうございます。
by morichanの父 (2010-03-16 22:52) 

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