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大人の三日間の文法問題 (1) I've Been Grown Up for Three Days (1) [Just Patty]

『あしながおじさん』は作者のジーン・ウェブスターには子供向けという意識はミジンもなかったし(と断言して不安になりましたが、慈善運動のために自ら舞台脚本を書いてアメリカの多くの家庭に訴えたときにもそうだったんだと思う)、『若草物語』については、作者のオルコットが、出版社から "girls" 向けの小説を書いてほしいという要望を(最初父親のブロンソン・オルコット経由で)受けたのは有名な話だけれども、なるほど第一部のはじめのほうはいかにも懇切丁寧な語り手を演じているけれど、話が進むにつれて、どうにも子供が100パー理解できるようなスタイルでもプロットでもなくなっていくような気がします。それと girl の範疇がどこまでかという問題があります。

  日本で「児童文学」と称されるものは、たぶん特に昔のものには歴史的な経緯からいろいろな作品が混在していて、典型的にはクーパーの『モヒカン族の最後の者』とかメルヴィルの『白鯨』といった大人の文学を子供向けにツヅメタ (retold) ものとかは、むかし「世界文学全集」とか「古典」とかがよかれあしかれ理念として共有されていたときに、大人の教養の入口として設定されていたのかもしれません。『あしながおじさん』とか『若草物語』はたぶんちょっと違っていて、主人公が「大人」になる前の、あるいは大人になりかけの時期を扱っているので、児童文学へ入れちゃうみたいな。

  おそらく children's literature というふうに "child(ren)" を念頭に置くならば、ティーンズの前の、つまり thirteen, fourteen, . . . nineteen と "teen" が付く年齢の前の、12 (twelve) 以下が主たる対象ということになるのでしょうけど。

  でも、日本で半ば死語となったかもしれない「青春小説」ですよね、どちらも。子供から大人にめざめていく「思春期小説」と重なっているけれど。いずれにしても「子供」が読むものではないような(偏見かw)。

  と、枕がだら~んと伸びました。

  ジーン・ウェブスターの『おちゃめなパティー Just Patty』 (1911) は、作者がヴァッサー女子大学卒業 (1901) 後に初めて出版した『パティーが大学生だったころ When Patty Went to College』 (1903) の主人公パティーとその親友のプリシラが大学入学前に通っていたセント=アーシュラ学院(高校というより4年制の finishing school)時代をいわばフラッシュバック的に描く長篇小説です。長篇小説だけれども、大学在学時に短篇のかたちで発表しつづけた作品をまとめた『おちゃめなパティー』と同様に、ゆるやかにつながった短篇小説集という趣きもあり、各章はエピソード的に完結しつつ(ユーモア小説的にオチを出しながら)展開してゆくという構成です。

  その4つ目の話が「終わりから三番目の男のひと The Third Man from the End」です。パティーは、親戚の結婚式のために汽車に乗るのだけれど、同じデザインのスーツケースを持った男と、互いのスーツケースを取り違えて下車してしまいます。結婚式の衣装のかわりに男物の服が入っていたのでした。

  「で、結婚式に何を着たの?」
  「ルイズの衣装よ。ちっとも変じゃなかったわ。わたしのほかの花嫁侍女と釣りあわないんですもの。あたしは付添女だったからよ。だから、どのみち別なのを着なけりゃならなかったのよ。あたし三日間で大人になっちゃったの。ロード先生が、あたしが髪をアップにして、男のひとと話をしてるところを見てくださればよかったと思うわよ!」 (遠藤壽子訳『おちゃめなパッティ』[『女学生パッティ』1956; rpt. ブッキング, 2004] 105)

  「それで、ルイーズの結婚式には、あなたは、なにを着たの?」
  「ルイーズのドレスよ。わたしのドレスは、ほかの付きそい役のドレスとつりあわなかったけど、そんなことは、すこしもかまわなかったわ。わたしは、付きそい役のリーダーだったから、どのみち、ちがうドレスを着ることになっていたんですもの。わたしは、三日のあいだ、おとなだったのよ――わたしが髪を頭のてっぺんにゆいあげて、男の人たちと話してるところを、ロード先生に見せたかったと思うわ!」 (榎林哲訳『おちゃめなパティー』 [講談社, 1981] 89)

  原文――"And what did you wear at the wedding?"
     "Louise's clothes.  It didn't matter a bit, my not matching the other bridesmaids, because I was maid of honor, and ought to dress differently anyway.  I've been grown up for three days―and I just wish Miss Lord could have seen me with my hair on the top of my head talking to men!"

  いろいろ問題を考えながらつづく~♪ あ、英文法的には「現在完了」問題でーす。

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(これまでの関連記事――なかば私的便宜に)――

レイディー・ジェイン・グレイ・スクール Lady Jane Grey School」 (2009.9.1)

フィニッシング・スクール Finishing School」 (2009.9.20)

100年前のセーラー服 (1) Sailor Suits of a Hundred Years Ago」 (2009.9.23)

おちゃめなパッティ Patty」 (2009.9.29)

『あしながおじさん――4幕の喜劇』 Daddy Long-Legs: A Comedy in Four Acts」 (2010.1.18)

 

ジーン・ウェブスターの著作 Jean Webster's Works」 (2009.9.14)

 


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morichanの父

kaoru さま、おはようございます。
by morichanの父 (2010-08-17 12:16) 

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