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バーネットの『白いひと』 (1917) _The White People_ by Frances Hodgson Burnett [The White People]

モーリちゃんの父は男だったので、小学生のころに『狭き門』は読んでも『あしながおじさん』も『秘密の花園』も読まなかった。『若草物語』も『赤毛のアン』も読んだ記憶はない。『小公子』と『小公女』は、どっちがどっちかわからないくらいだけれど、小学校5,6年のころに、模型飛行機でセドリックというのがあって、その記憶と結びついているので、たぶん『小公子』は読んでいたのかもしれない。

  さて、モーリちゃんはいつのまにかもう小学校6年生になってしまったけれど、子供を育ててタメになることのひとつは、一生の読書の初期部分をやりなおせることですな。大人の目で読むとどうなるかというようなリクツっぽいはなしではなくて、単純に、読むという行為においてです。「子供は大人の父である」(ワーズワース)。であるなら大人は子供の子供なのだ。

  川端康成 (1899-1972) 訳の『白い人びと』は、弟子の野上彰 (1909-67) が編集委員のひとり(他は藤田圭雄と矢崎源九郎と金田一春彦)となっていたポプラ社版「世界の名著」全30巻の第9巻に、『小公子』と一緒に収められました(1972)(ちなみに第10巻は『小公女』で、やっぱり川端の訳だった)。いったい、著名な作家がどれくらいのエネルギーと負担で訳すのかはわからないけれど、川端康成という人はもっと以前から児童文学にかかわっていた人ではあります。ともあれ、野上彰個人はこのシリーズの中では、『若草物語』(第13巻)と『あしながおじさん』(第21巻)という、このブログで扱ってきたアメリカ文学作品2作を訳しています。

  この抄訳に影響を受けた人は多くて、2002年に完訳版として『白い人たち』(文芸社; 新装版, 2005)を上梓した砂川宏一も、その旨「訳者まえがき」に記しています。

  『白いひと』は、スコットランドの、文字通りにゴシック的な「城」(Muircarrie Castle)に、家長として育った少女イザベル (Ysobel) が、「白いひと White People」を幻視するエピソードと、同じスコットランドの作家ヘクター・マクネアン (Hector MacNairn) との交流を通して自分と世界についての理解を深めていく(というと月並みですが、「白いひと」というのは基本死者ですから、オカルト的なおもむきが漂っています)プロットからなる、中篇小説です。ちょっと唐突なところもあるしちょっと断章的な感じが否めなくもないけれど、奇跡についてとか、世界の法則についてとかは、『秘密の花園』の中にあって日本の児童文学者に嫌われる「魔法」的な部分につながっていて、神秘主義的な世界観が背後にあることが感じられます。けれどもそれを神秘「学」的に説くところは、よかれあしかれ、少なくて、また、恐怖感も稀薄で、結果、しみじみとする、ゴシック・ロマンスの変化形といった感じ(まったく個人的な感じ)。

  ただ、この種の作品はバーネットが大人向けに書いたというような分類をされることが多いけれども、『秘密の花園』だって大人向けに書いたわけです。読者の体験としては、たぶん大人の知恵で主人公の「心理」を分析してしまうよりも、そのまま(いわば子供のように)事実として読んでいって、マクネアンらによる説明を聞いたほうが神秘感は大きくなるでしょうね。いっぽう、語り手とマクネアンとの関係からするならば、まだ十代の少女が書いている設定(幼少時の回想から始まるけれど、ほとんど現在につながる)と思われますから、そこでも大人/子供の区分を崩しているのではないかしら。

  あー、だから「しみじみとする」などというコトバは大人の言い方であって、もうちょっと高揚する驚きの感覚とか、わけわかんないけど現実の背後にあるものの予感とか、そういうものを時間の中に生きる(ということは死なざるを得ない)人間のある種の憧憬とともに提示していて、そういうところは、ぜんぜん物語は違うけれど、ロバート・ネーサンの『ジェニーの肖像』と似た不思議な印象を読者に必ず刻むような気がする。

   ということで(どういうことかわかりませんが)、少しずつバーネットについても書いてみたいと思います。

WhitePeople-frontispiece-gaussed.jpg
Frances Hodgson Burnett, The White People (New York: Harper, 1917), frontispiece.  Illustrated by Elizabeth Shippen Green.

  右手前の女の子が6歳ごろのYsobel。となりの女の子がウィー・ブラウン・エルスペス (Wee Brown Elspeth)。背後の騎士がその父親の「ダーク・マルカム」 (Dark Malcolm of the Glen)。この父子の500年前の暗く悲しい物語は第9章(作品は全10章)になって語られます。

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Gutenberg E-book of The White People <http://etext.lib.virginia.edu/etcbin/toccer-new2?id=BurWhit.sgm&images=images/modeng&data=/texts/english/modeng/parsed&tag=public&part=all>

『バーネット女史の部屋』 by らいおねる <http://www.geocities.co.jp/Berkeley/1400/>

Frances Hodgson Burnett, The White People (New York: Harper, 1917) etext @Internet Archive <http://www.archive.org/details/whitepeople00burnrich>

 

 


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morichanの父

kaoru さま、nice ありがとうございます。
by morichanの父 (2010-08-31 14:27) 

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