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ペルセポネ(プロセルピーナ)の話(上)――春を告げるもの(ウォルター・クレイン)の余白に [Marginalia 余白に]

ギリシア神話のペルセポネ(=ローマ神話のプロセルピーナ)は、冥界(地下世界)〔ギリシア神話の ハーデス Hades、ローマ神話のオルクス Orcus〕の女王という側面と、母親のデーメテール Demeter (=ローマ神話のケレス Ceres)とほとんど一緒の地母神的な側面と、あって、たぶん(に)混淆的な存在なのだけれど、母親と違って地を去っちゃってまた帰ってくるという空間的移動をもつことで、「春の女神」という時間的サイクルを司る役割をもったように思われます。 

ウォルター・クレインは、1878年に The Fate of Persephone という油絵(テンペラも使用)の大作を発表しています。

Crane,Walter-TheFateofPersephone.jpg
Walter Crane, The Fate of Persephone [122.5×267cm; oil and tempera on canvas] image via Fine Art Giclée - globalgallery.com <http://www.globalgallery.com/enlarge/64751/#>

   この絵がクリスティーズのオークションにかけられたときの "lot description" を見ると、ミルトンの『失楽園』(Paradise Lost, Book IV, ll. 268-71)と関係付けられているみたいです。――

signed, inscribed and indistinctly dated 'WALTER CRANE MDCCC/LXXVIII' (lower left) and signed and inscribed 'THE FATE OF PERSEPHONE/WALTER CRANE/13 HOLLAND ST./KENSINGTON.LONDON.W./ Proserpine in Enna gath'ring flowers./Herself a fairer flower by gloomy Dis/was gather'd Milton' (on the stretcher) and further inscribed '.../Herself a fairer Flower..gloomy Dis/Was gather'd/Walter Crane/Beaumont Lodge/Shepherds Bush/13 Holland Street' (on an old label attached to the stretcher)
oil and tempera on canvas
48¼ x 105 1/8 in. (122.5 x 267 cm.) <http://www.christies.com/LotFinder/lot_details.aspx?intObjectID=3935128>

  "stretcher" に書かれていると書かれていますけど、 "stretcher" というのはカンヴァスを張る木枠のことですよね。だから、ウォルター・クレイン自身がタイトルに続けて書いたのでしょうか。それが "Proserpine in Enna gath'ring flowers./ Herself a fairer flower by gloomy Dis/ was gather'd  Milton" の部分。ラベルには基本同じ引用が反復されているみたい。 

    ・・・・・・かのプロセルピンが
    花摘みつゝ、みづからはなほ美はしき
    花なれば、もの暗きヂスに摘まれて
    ためにケレスが世をあまねく尋ねし
    美はしきエンナの野も・・・・・・ 〔藤井武訳『楽園喪失』〕

  ヂスというのは Dis で、ローマ神話における冥界の王(ギリシア神話の Pluto)。花を摘んでいた娘のプロセルピーナは彼女自身が美しい花だったので、暗い世界の Dis に摘まれ、〔母親の〕Ceres が捜索した、というような一節ですけど、ここで、プロセルピーナの物語のおさらいです。

  ゼウス Zeus (ローマ神話のジュピター Jupiter)大地と豊穣の女神デーメテール Demeter (ケレス Ceres)のあいだに生まれた娘のペルセポネ Persephone(プロセルピーナ Proserpina; Proserpine (英語))は、他の娘(ニンフ nymph)たちとエンナ〔シチリア島のパレルモの南東あたり〕の草原で花を摘んでいました。黄色いスイセンに手を伸ばしたときに、不意に地が割けて、馬車に乗った冥王プルートー(ディス[ヂス])が出現し、ペルセポネを抱きかかえるとそのまま地下世界へと連れ去ってしまいます。母親のデーメテールは失踪した娘を半狂乱になって探しまわり、そのかん大地は収穫もなく荒れ果てます。ゼウスは psychopomp (霊魂を冥界へ導く案内者)でもあるヘルメスを使いにだして、プルートーにペルセポネを帰させようとします。プルートーはしぶしぶ承知しますが、帰ろうとするペルセポネにザクロ(石榴・柘榴――英語だと pomegranate・・・・・・語源的には「種のたくさんあるリンゴ」)をひとつ手渡します。ペルセポネは冥界にいるあいだ、なにも口にしておらなかった。で、地上にむかう馬車のなかでザクロの種を4ないし6粒食べてしまいました。このザクロによってペルセポネは冥界に縛られてしまいます。母親のデーメテールはゼウスに懇願する。その結果、4粒の種を食べたペルセポネは1年のうちの4箇月を地下世界で冥王プルートーの妻として暮らし、4箇月たったら戻ってきて地上の母親と8箇月暮らすことになりましたとさ。

  ということで、ペルセポネが冥界にいて地上を去っている時期が冬(母親は悲しくて大地の世話をやめてしまう)で、ペルセポネが地上に戻ってくるのが春の訪れです。

  1906年に出版された Flowers from Shakespeare's Garden: A Posy from the Plays Illustrated in 40 Colour Plates by Walter Crane (London: Cassell, 1906) には、シェークスピアの『冬物語』の挿絵としてプロセルピーナを描いています。残念ながら Internet Archive 等には E-book が見つかりませんが、『子どものための美しい庭 The Beautiful Garden for Children』のなかで見られます <http://pinkchiffon.web.infoseek.co.jp/secretgarden12.htm>。胸はだけてます。

  そして、マール社から『シェイクスピアの花園』というタイトルで2006年に出版されているようです。――

412MKST4H3L__SL500_AA300_.jpg

  

  ミルトンにシェークスピア。つづきます。

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「ゼウス(4):母娘と狂女物と「花と蛇」(ペルセフォネ)」 〔Ashe さんの『絵画で見るギリシャ神話』2002.9.3〕 <http://ashe4myth.blog118.fc2.com/blog-entry-14.html>

「ウォルター・クレイン 「プロセルピナ」」 〔『子どものための美しい庭 The Beautiful Garden for Children』の中〕 <http://pinkchiffon.web.infoseek.co.jp/secretgarden12.htm>

 

  


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とびら

ブログの更新大変だと思いますが、応援しています☆

by とびら (2011-02-12 11:40) 

morichanの父

とびら さまご訪問とコメントありがとうございます。高1以来床屋さんに行っていなかったのですが、美容院に行ってみようかと思っていたところです。
by morichanの父 (2011-02-19 09:02) 

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