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ペルセポネ(プロセルピーナ)の話(下)――春を告げるもの(ウォルター・クレイン)の余白に  [Marginalia 余白に]

ウォルター・クレインは1871年秋から73年の春までイタリアに旅行し、冬はローマで過ごしました。その滞在中に描いた水彩画の1枚が A Herald of Spring (1872) でした。Dudley Gallery で展示されたときには The Herald of Spring と定冠詞になっていて、それでA と Theが混在しているみたいです。

  この絵です。

  さて、「ペルセポネ(プロセルピーナ)の話(上)――春を告げるもの(ウォルター・クレイン)の余白に」のつづきです(そして、いっきに、「あめんどう Almond――「春を告げるもの A Herald of Spring (Walter Crane)」のつづき」で提起した問題の解決編です)。

  Flowers from Shakespeare's Garden: A Posy from the Plays Illustrated in 40 Colour Plates by Walter Crane (London: Cassell, 1906) でシェークスピアの『冬物語』にちなんでウォルター・クレインが描いたペルセポネの絵には芝居の台詞が添えられています。――

Crane,Walter-PersephoneIsAbductedbyHades.jpg
image via AllPosters.com: "Persephone Is Abducted by Hades by Walter Crane" <http://www.allposters.com/-sp/Persephone-is-Abducted-by-Hades-Posters_i1863390_.htm?aid=637878808&DestType=7&Referrer=http%3A%2F%2Fwww%2Enatureartworks%2Ecom%2Fposters%2Fi1863390%2Ehtml>

   ("Persephone Is Abducted by Hades" というのがタイトルとしてクレインが付けたものかどうか定かではないですけど、独立した複製画としてこの題で流布しているみたいです。「ペルセポネがハーデスに誘拐される」。ここでハーデスは死者の国という場所ではなくて冥界の支配者プルートーのことです。)

  さて、もとのシェークスピアの芝居『冬物語』において、この箇所は、第4幕3場のパーディタ Perdita の「花くらべ」として知られる台詞の一部です。前後を薄くして引いておきます。

PERDITA: [. . .]
I would I had some flowers o' the spring that might
Become your time of day;―and yours, and yours, and yours,
That wear upon your virgin branches yet
Your maidenheads growing:
O, Proserpina,
For the flowers now, that, frighted, thou lett'st fall
From Dis's wagon!
daffodils,
That come before the swallow dares, and take
The winds of March with beauty; violets dim,
But sweeter than the lids of Juno's eyes
Or Cytherea's breath; pale primroses,
That die unmarried, ere they can behold
Bright Phoebus in its strength,―a malady
Most incident to maids; bold oxlips and
The crown-imperial; lillies of all kinds,
The flower-de-luce being one!  O, these I lack,
To make you garlands of; and my sweet friend,
To strew him o'er and o'er!

  
  英語の勉強をすると、 "O! for" は《古》archaic で「ああ、x x がほしい」という言い方。that は関係代名詞で先行詞は the flowers。thou = you〔古い2人称代名詞〕。lett'st = lettest = let〔古い2人称代名詞と一緒に変化した古い動詞形〕で、これの目的語が that = the flowers。frighted = frightened は主語の thou を修飾する補語の過去分詞(「びっくりして」「驚きのあまり」)。

  ――ああ、プロセルピーナ! あなたがディスの馬車から落としてしまった花がいまほしい。

  さて、つづく台詞の部分にもクレインは絵を添えています。――

img_132.jpg
Daffodils [Walter Crane, Flowers from Shakespeare's Garden: A Posy from the Plays (London: Cassell, 1906)] image via

『Wings of Angel』 (天使の翼) 「絵画の中の妖精」<http://angel.pupu.jp/f_picture/crane.htm>

                                        daffodils,
That come before the swallow dares, and take
The winds of March with beauty;
(ツバメがあらわれるまえにあらわれて、三月の風を美しさでとりこにするダフォディルが〔ほしい〕)

  (take よくわかりませんけど、captivate の意味にとっておきます)この黄色い花ならびに3人の黄色い花の精はダフォディル(水仙; とくにラッパズイセン)で、その花は、ペルセポネがプルートー(=ディス=ハーデス)に拉致されたときに摘みかけていた花にほかなりません。宙を飛ぶ若いツバメは管楽器 (winds) でラッパズイセンことダフォディルと競っているのかしら。

  そして、もう一度 A Herald of Spring の絵を見てみる。あ゛~、もう1回貼りつけてしまいます。――

Spring_Crane.jpg
image via Pre Raphaelite Art [by Hermes さん] <http://preraphaelitepaintings.blogspot.com/2011/01/walter-crane-herald-of-spring.html>; original image <http://www.bmagic.org.uk/objects/1929P528 >

  この絵で、裸足の女性が左手にもったカゴに入っている黄色い花はダフォディルです。そして、やはり、右上の家の入口にとまっているのはツバメではないかと思われ(でもまだ巣がないから、やってきたばかりかと)。街路に落ちている花は右手にもったアーモンドの花ではなくてダフォディルでしょう。

  そうなると、この、妻をモデルにしたとされる「春を告げるもの」、春の先触れ、告知者は、冥界から地上に現われたペルセポネのイメジと重なっているということになるのではないでしょうか。

  背後に見えるオベリスクがどういう象徴性をもった建造物と考えられていたのか知りませんが、少なくとも構図的には上方への垂直的運動、地(地下世界)からの力を示していると言えると思います。


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