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いいじゃないの幸せならば (4) What's the Odds So [As] Long As You Are Happy [Daddy-Long-Legs]

   キプリングの短篇小説の注釈が「いいじゃないの幸せならば」(という訳が妥当かどうかわからないが、短篇 "Black Jack" で Wot’s the odds as long as you’re ’appy?――どうやらインドの初版では Wot’s the odds so long as you’re ’appy?――、『あしながおじさん』とR. M. Ballantyne の長篇小説で Wot’s the hodds so long as you’re ’appy?)を catchphrase としていることが頭に残っていて、調べてみた。キャッチフレーズと呼ぶ一方、「引用」されるコトバとして記述されていたので。
  もともと、キャッチフレーズというと日本語では、「標語」とか「うたい文句」という感じだけれど、英語のキャッチフレーズ辞典というのは前からあって、その場合は「きまり文句」という感じのような気がしていた。個人的には、はじめて意識したのは、辞書の鬼エリック・パートリッジEric Partridge, 1894-1979 の俗語辞典 Dictionary of Slang and Unconventional English (初版はたぶんロンドン、1937年) の副題が "Colloquialisms, and Catch-Phrases, Solecisms and Catachresis, Nicknames, and Vulgarisms, and Such Americanisms as Have Been Naturalized" で、いまだにその半分の意味もわかっておらないけれど、25年くらい前からはキャッチフレーズなるものがモヤモヤと気にはなっていたのでした。でも俗語辞典としてはこれはイギリスのものであり、アメリカ文学がらみで辞書を引くことが多いので、あんまり使わないままでしたし、自分でキャッチフレーズ辞典を買うこともなく、ときどき図書館とかで、たぶんパートリッジ晩年の1977年に出版されたA dictionary of catch phrases, British and American, from the sixteenth century to the present day を手に取ることはあったのですけれど、なんか役に立たず(どうも自分が求めているものとズレている感じ)。
  以上、個人的な回想で、以下、調べた結果です。

  パートリッジのキャッチフレーズ辞典を増補した複数の辞典のひとつに、Paul Beale 編のものがあります。表紙を見ると誰の本なのやらよーわかりません。

WS000024.JPG

Partridge&PaulBeale_DictCatchPhrases.jpg

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   この1980年代に増補された本(上の中の画像はWEB版というかGoogle Books 版――ナカミを全部見ることはできませんが <http://books.google.co.jp/books?id=Nm3jbg0JalMC&printsec=frontcover&source=gbs_v2_summary_r&cad=0> ――の表紙版です)の520ページに、Paul Beale (P. B.) の記述として以下のように項目があがっています。

what's the odds, so (or as) long as you're happy? seems to have orig. as a c. p.〔c. p. = catch phrase です〕 (even if, as E. P. 〔E. P. = Eric Partridge です〕thought, it later became a cliche) in the early 1850s.  It occurs in Punch, 25 Sep. 1852, p. 143, and in the Punch Almanack for 1852, where the answer is given as 'Ten to one in your favour'.  As R. C. notes, 1978, Kipling uses it in his Stalky & Co., 1899, indicating its currency among Public Schoolboys in the late 1870s; George du Maurier has it in Trilby, pt 1, 1894.  It was still remembered in the 1940s, among the older generation, and perhaps survives even yet. (P. B.)  〔what's the odds so [as] long as you are happy? はキャッチフレーズ(エリック・パートリッジは後にクリシェになったと考えたとはいえ)として1850年代初頭に始まったものらしい。雑誌『パンチ』の1852年9月25日号143ページ、そして1852年の『パンチ年鑑』に現われていて、この問いに対する答えは「十中八九あなたの有利に」となっている。R・Cが1978年に注記しているように、キプリングは1899年の著作Stalky & Co. でこの表現を用いて、1870年代後半の英国パブリックスクールにおける使用を示唆しており、また、ジョージ・デュ・モーリアは、1894年出版の『トリルビー』第一部で用いている。1940年代においてもなお年長の世代には記憶にとどめられていた表現であり、もしかするといまもなお生きているかもしれない。〕

  ということで、『パンチ』――この有名な英国の雑誌にジョージ・デュ・モーリアーは挿絵画家として関わっていたわけですけれど―― の1852年の記事には既に現われており(そのときのツヅリがどうであったか調べていませんけれど、どうやら特にコックニー的な方言的意味合いがあったようにも思われず)20世紀にも使われていたという記述です。少なくとも "What's the odds?" という前半部分は、現在の英和辞典に載っている成句です。

   エリック・パートリッジは、1970年代まで生きたとはいえ、コンピューター以前の辞書編集作業を偏執的に行なった人でした。それを補ったP. B. さんの、少なくともこの本での仕事は、今日のようなWEB の波をサーフィンして情報を漁るというところはどうやら、少なくともこの項目については見られないようです。
  今の世であれば、Rudyard Kipling が、Stalky & Co.  の前の短篇で使用していたこと、そして(アメリカのJean Webster の1912 年の Daddy-Long-Leggs で「英文古典」として引かれている表現はKipling と Du Maurier とも異なり)、1884年の R. M. Ballantyne の Dusty Diamonds Cut and Polished (1884) においてキプリングやデュ・モーリア以前に文学作品では用いられていた、ということが、インターネットを使って(容易にとは言いませんが、もしかすると不用意に)知られるのでした。
  で、キャッチフレーズですけれど、「はやりことば」という訳語を研究社の『リーダーズ英和辞典』が冒頭に与えていたことを初めて知ったのですが、そうなんすかねー。


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