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サザン・ハーモニー The Southern Harmony――天(国)地(獄)人(間) (3) Heaven, Hell, and Man [Daddy-Long-Legs]

ケロッグさんの選んだ讃美歌 Hymn Sung by Mr. Kellogg――天(国)地(獄)人(間) (2) Heaven, Hell, and Man」のつづきです。

  『あしながおじさん』の1年生の7月に、ロックウィローの教会でジュディーが、こんな讃美歌を選ぶ人の心理を知りたいと書いた、ケロッグ牧師の説教後の讃美歌として引用されている4行が、“Oh Turn, Sinner” [The Southern Harmony 263: "Today if you will hear his voice"] という讃美歌のパロディーであると仮定したうえでのさらに仮想的な問いを書いてみます。

  The Southern Harmony, and Musical Companion は、南部のサウスキャロライナ出身の音楽家・作曲家 William Walker (William "Singin' Billy" Walker, 1809-75) が1835年にフィラデルフィアで出版した讃美歌集です。ウォーカーはキリスト教のセクト的にはバプティストの人だったようです。初版では335曲がおさめられていたのが、版を重ねて1840年に改訂2版、1847年には40ページを増補、現在リプリント版が出ているのは1854年版のようです。この前の記事にあげたように、長い副題がついています――"Containing a Choice Collection of Tunes, Hymns, Psalms, Odes, and Anthems; Selected from the Most Eminent Authors in the United States: Together with Nearly One Hundred New Tunes, Which Have Never Before Been Published; Suited to Most of the Metres Contained in Watts's Hymns and Psalms, Mercer's Cluster, Dossey & Choice, Dover Selection, Methodist Hymn Book, and Baptist Harmony; and Well Adapted to Christian Churches of Every Denomination, Singing Schools, and Private Societies: Also, an Easy Introduction to the Grounds of Music, the Rudiments of Music, and Plain Rules for Beginners"   「合衆国の最も著名な作者から選んだ」こと、「あらゆる宗派 denomination のキリスト教教会・・・・・・にふさわしい」ことが書かれています。

SouthernHarmony(UPofKentucky).jpg
image via University Press of Kentucky <http://www.ccel.org/ccel/walker/harmony2.txt>

  歴史的なことをちょっと書いておくと、南部は北部の植民地が禁欲的なピューリタンの宗教心が強く反映されるかたちで始まったのに対して、英国教会の信徒が中心で、大規模農業、そして農業をもととする商業が盛んになっていったわけですが、18世紀にバプティストとメソディストが進出してから、キリスト教ファンダメンタリズムの中心となっていきました。1年生のクリスマス・イヴの手紙で、ジュディーは、ジュリア・ペンドルトンから自分の母方の姓を尋ねられて、でまかせで Montgomery と言ってしまいます。するとジュリアは、マサチューセッツのモントゴメリー家かヴァージニアのモントゴメリー家か知りたがる("Then she wanted to know whether I belonged to the Massachusetts Montgomerys or the Virginia Montgomerys." [Penguin Classics 版 29頁])。北部のマサチューセッツと南部のヴァージニアは17世紀初期植民地の北と南それぞれの中心です。

  ついでながら、作者のジーン・ウェブスターの母親は南部人であり、父親はイギリスとドイツの血統の混じった、北部ニューイングランド人でした〔とりあえず、ウィキペディア等に情報はないので、『あしながおじさん』のGrosset & Dunlap 社による1940年ごろのリプリント版 <http://www.archive.org/details/daddylonglegs00webs> に付された序文(これは複数の筆者の文章をつぎはぎにしたパッチワークのようで、この情報の部分は最初の "[D. Z. D. in The Century Magazine, November 1916]" )を参照〕。

  ですが、William Walker は晩年の1866年には The Christian Harmony というタイトルの讃美歌集を編みますし、とりたてて南部的というのではないのかもしれません。もっとも、The Southern Harmony に対抗するようにして The Northern Harmony という賛美歌集が作られたのも事実です。よくわかりません。

Oh,TurnSinner.jpg
image via Hymnary.org <http://www.hymnary.org/hymn/SH/263>

  これまでリンクした The Southern Harmony のページでは作詞者・作曲者の情報を与えてくれていないので、別筋で調べると――たとえば、 Sacred Harp Singing 内の"Indexes for The Sacred Harp, 1991 Edition" <http://fasola.org/indexes/1991/?p=160b> や The B. F. White Sacred Harp (Cooper Book) Online Index 内の "Turn, Sinner, Turn 105b" <http://resources.texasfasola.org/index/poetry/105b.html>―― 曲(ないしアレンジ(?*))はElisha J. Kingで1844年、詞は William Miller で1809年と記載されています。

  (*よくわかりませんけれど、もしかすると有名なチャールズ・ウェズレーの "Sinners, Turn: Why Will You Die?" <http://www.cyberhymnal.org/htm/s/n/snrsturn.htm> ――ページを開けると曲が流れます――の曲(Louis J. Hér­old, 1830; ar­ranged by George Kings­ley, 1838 )と関係があるのやもしれません。わかりません。)

  さて、作詞が William Miller と記されているので、モーリちゃんの父的にはビビッたのでした。え゛ー、これってキリスト再臨を唱え、世の終末を計算してみんなで山に登って昇天しようとしたあのウィリアム・ミラーさん???? ウィリアム・ミラー (1782-1849) は1809年というと27歳ぐらいだから、讃美歌を作っていても不思議ではないですけどー。ミラーはフリーメーソンだったとも言われてますけれど、マサチューセッツ生まれのバプティストの牧師でした。しかし、傍流的流れとしては "Advent Christian Church" に位置します。そのなかで現在有名なのは Adventist と略称される "Seventh-Day Adventist Church" かもしれません――これについては日本語ウィキペディアに記事があります――「セブンスデー・アドベンチスト教会」。

  さて、(と、ぜんぜん傍証なしに連想は続くのですけど)カリフォルニア時間の記事「January 3-4 ホメオパシーとスウェデンボルグ主義 (上)――擬似科学をめぐって(7)  On Pseudosciences (7)」で書いたように、サミュエル・トムソン Samuel Thomson, 1769-1843 やシルヴェスター・グレアム Sylvester Graham, 1794-1851 の代替医療的・大衆治療的・自然療法的・菜食主義的な思想を継いだひとりが、コーンフレークをはじめとするシリアル食品で有名なケロッグですが、共同創始者のケロッグ兄弟のにいさんのほうのジョン・ハーヴェー・ケロッグ John Harvey Kellogg, 1852-1943 はセブンスデー・アドベンチスト教会の信者だったのでした。

  で、牧師の名前がケロッグさんと。うーむ。説得力ないなあ。ちなみにケロッグ社の設立は1906年です。だからあてこすりがあってもいいような気もします。

  それにしても、こう書いておいてなんですが、もちろんわけがわからないのは、北部南部のキリスト教の問題で(これはたぶんに不勉強がありますけれど)、バプティストやメソディストは、特に南部は保守性を特徴とするとはいえ、ピューリタンの教義とどれだけ重なるのでしょう。通常の理解では、カルヴィニズムの予定説に抗して、いわゆるアルミニウス主義的なセクトとしてメソディストやバプティストが位置づけられるわけですから。

  ということで謎は謎を呼ぶけれどもたぶん答えは見つからず。つーか、勝手な妄想が働いていただけかもと申そう。

  もうちょっと考えてみます。

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参考url――

"The Southern Harmony," Wikipedia <http://en.wikipedia.org/wiki/Southern_Harmony>

"William Walker (composer)," Wikipedia <http://en.wikipedia.org/wiki/William_Walker_(composer)>

eHymnBook.org <http://ehymnbook.org/index.html>

http://www.ccel.org/ccel/walker/harmony2.txt 〔The Southern Harmony の1966年版リプリントをもとにしたE-text〕

 

   


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