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100年前のセーラー服 (1) Sailor Suits of a Hundred Years Ago [Just Patty]

遠藤寿子訳の『おちゃめなパッティ』(ブッキング、2004年, 322pp.)〔邦訳の元タイトル『女学生パッティ』(三笠書房, 1956)、原作 Just Patty (Century, 1911)〕を読み終わる前に、古本の白木茂訳『おちゃめなパッティ』(岩崎書店、世界の少女名作2、1991, 204pp.)が届いたのでパラパラ見ていたのだけれど、分量的にどう考えても抄訳だし、「遠藤寿子さんの訳本を参考にさせていただきました。心からお礼を申しあげます。」と〆られている解説も、とりたてて示唆的なところはなかった。のですが、逆に、つぎのような文章につい反応してしまった。――

この作品は、一九一一年に出版されたのですから、今から八十年もまえのアメリカの田舎町の寄宿舎のある学校におこった日常の出来事がえがかれているわけです。(「解説」 202ページ)

  この「ですから」は、必ずしも論理的因果関係を示しておらぬことを理解するくらいの文章力はモーリちゃんの父にはあるので、「今から」のあとの過多な情報との不釣合いを云々するつもりはない。が、1991引く1911=80 で、80年前の出来事、という単純な算数にカチンときたのでした。

  いったい、作家が作品を出すときに、物語の時代背景をどこに設定するかというお話です。もちろんいろいろなわけですし、歴史小説が典型だけれど、過去に設定し、場合によったら年代を具体的に示す場合ももちろんあります。物語の中で時間がどれだけ経過するのかも関わることです(70歳で死ぬ主人公の生まれたときからの人生を描くとなると、抽象的な空間に追いやらない限りは、歴史的な背景を考えざるを得ない)。問題は、特に具体的年号が示されておらぬ場合です。さらに作者の自伝的な要素が反映されているらしいときです。たとえば、これもこのごろ読み直しているのですが、下村湖人 (1884-1955) の『次郎物語』を出版年の時代で読む読者はおらなかったしおらぬでしょう(よくわからない文章ですいません)。

    で、セーラー服と。自分の手元にあるのは、C. M. Relyea という人のイラストレーションの入った Grosset & Dunlap 版 (New York, 1911) です。

JustPatty28-29,modified2-1024.jpg
(クリックで少し拡大)

  この小説の舞台となる聖アーシュラ学院は、ジーン・ウェブスターが1894年から1896年まで通ったフィニッシング・スクールのレイディー・ジェイン・グレイ・スクールがモデルになっていると言われています――キャンパスのつくりや、建物の名前(上のキャプションの "Paradise Alley" というのは西寮(正確には西棟 the West Wing)の学生間の隠語的呼称なのですが、これはLady Jane Grey に由来する)や制服など。

  作家の気持ちと、挿絵画家の知識や意識と、場合によったら両者の伝記的背景と、いろいろ要素はありそうで、単純にこれが100年前とか110年前とか言えない。それはわかっておるのですが、俄然興味が湧いたのでしたw。


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