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D. R. L. S.: 親愛なるロバート・ルイス・スティーヴンソンちゃま Dear Robert Louis Stevenson [Daddy-Long-Legs]

直前の記事「多弁にて失礼 Loquaciously Yours」の "loquaciously" が、スティーヴンソン Robert Louis Stevenson, 1850-94 からの幻の引用であるといえるなら、これは、さらにほのかにスティーヴンソンは『あしながおじさん』のなかに響いているかもしれません、という記事でございます。

女子寮の話から火馬、火の車馬、火事馬、消防馬、消防馬車馬へ Fire Horses」と「ヴァッサー女子大 Vassar Female College」で書いたように、『あしながおじさん』の大学のモデルになっているヴァッサー女子大学に、ジーン・ウェブスターが1897年秋に入学したときには、ストロング・ハウス Strong House (1893)  とレイモンド・ハウス Raymond House (1897) という二つの寮がありましたが、さらに Lathrop House (1901) と Davison House (1902) が同じ意匠で建設され、4つの寮が二の字二の字の下駄のあと、という感じで、二つずつ向かい合って並ぶことになるのでした。

  設計者のフランシス・アレンというのは、調べてみると Francis R. Allen (1844-1931) でした〔archINFORM <http://eng.archinform.net/arch/73356.htm> 〕。マサチューセッツ工科大学を卒業後、パリに留学した建築家で、東部で設立した会社のAllen and Collins は、大学や高校の建物を数多く建造したようです。この記事によると、ヴァッサーでは12の建物をつくったようです。

  で、本郷の農学部と法文学部の建物のように、というタトエがどれだけ有効かわかりませんけれど、おんなじ形状の建物が並んでいるので、どれがどれだかわからなくなる、あるいは特に新入生は混乱する、ということがあったようで、ヴァッサー女子大のWEBページによると、建物の並びを覚えるための文句がヴァッサーにはあった(ある)のだそうです。次の文章は、Vassar Encyclopedia 内の「ヴァッサーの伝統」を記述したページの一節です。――

Some traditions have become legends—the Lantern Festival, the Senior Parlor, trips to Lake Mohonk and Slabsides, boat rides on the Hudson, the Hall plays, Class Day, and Sporting the Oak. Some of these are still listed in the current Student Handbook, even though nobody at Vassar does them. "Dear Robert Lewis Stevenson," said the 2004-05 handbook, is "the traditional way of remembering the quad dorms by first letters—Davison, Raymond, Lathrop, and Strong." Current Vassar students seem to have no difficulty remembering the names of the quad dorms, so this "tradition" has fallen into disuse. Likewise, has anyone on campus witnessed something called "Sporting the Oak"?
〔"Vassar Traditions - Vassar College Encyclopedia" <http://vcencyclopedia.vassar.edu/traditions/index.html>〕

(伝統の中には伝説になったものもある――ランタン・フェスティヴァル、シニア・パーラー、モホンク湖とスラッブサイズ湖(?)への旅行、ハドソン河のボート、ホールでの芝居、クラス・デー、スポーティング・ジィ・オーク(面会謝絶表示)。この中には、今はヴァッサーの誰も行なっていなくともなお、現行の学生ハンドブックに記載されている。2004-2005年版ハンドブックには、「ディア (Dear)・ロバート (Robert)・ルイス (Lewis [sic])・スティーヴンソン (Stevenson) というのがデイヴィソン (Davison)、レイモンド (Raymond)、レイスロップ (Lathrop)、ストロング (Strong) という四つの寮を頭文字で覚える伝統的な方法」であると書かれている。今のヴァッサーの学生たちは、寮の名を覚えるのに困難を覚えないようなので、この「伝統」は用いられなくなっている。同様に、キャンパス内で「スポーティング・ジィ・オーク」と呼ばれるものが目撃されているかどうか。

  地図写真を添えたこのあいだの記事「ヴァッサー女子大 Vassar Female College」では、「右上から時計回りに、Lathrop House (1901)、Strong House (1893)、Raymond House (1897)、Davison House (1902)」と名前を記しましたが、西側の北・南、東側の北・南、という順序で D(ear) R(obert) L(ouis) S(tevenson) なのでした。

(1) Davison  (1902)          (3) Lathrop (1901)

(2) Raymond  (1897)        (4) Strong (1893)

  いわゆる mnemonic device とか mnemonic system とか呼ばれる記憶法の一種です。

  ということで、スティーヴンソンは意外なところでヴァッサーに密着しておったのでした。ジーン・ウェブスターが卒業後の1902年に Davison が加わるわけですが、それまでの R. L. S. でも Robert Louis Stevenson と呼ばれていたのかどうかはわかりません。さらに前に二つしか寮がなかったときに Robert Stevenson と唱えられておったかどうか・・・・・・それはなかろうと思いますw  けれども、1901年度卒業生だったウェブスターが10年後に『あしながおじさん』を書いたときには、この「伝統」は定まっていたかもしれません。しかもDear は手紙の書き出しの常套ではないですか。

   『あしながおじさん』の舞台となる女子大を、ロバート・ルイス・スティーヴンソンは幽霊のように姿なく漂っているかもしれないのです。 

vassar-college (1861).jpg
"Vassar Female College" (Harper's Weekly, March 30, 1861) image via Civil War <http://www.sonofthesouth.net/leefoundation/civil-war/1861/march/vassar-college.htm>  ヴァッサー女子大の創立年。上の図は建築のプランの絵で、実際に教育の場所としてthe Observatory ができるのは1864年、Main Building が完成するのは1865年だったようです。

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スティーヴンソンがらみの記事――

スティーヴンソンからテニソンへ From Stevenson to Tennyson」 
スティーヴンソンの最初の言及 The First Mention of R. L. S.
ジュディーと冒険 The Adventurous Judy
スティーヴンソン全集 Works of Robert Louis Stevenson
スティーヴンソン、ヴァイリマ Stevenson, Vailima
スティーヴンソン全集(アメリカのアザミ版) The Thistle Edition of Robert Louis Stevenson's Works
スティーヴンソンの手紙 Letters of Robert Louis Stevenson
ハッピー・ソート(幸せの想い)――スティーヴンソンの5度目の言及 Happy Thought: The Fifth Mention of R. L. S.
『宝島』――スティーヴンソンの6度目の言及 (1) Treasure Island: A Sixth Mention of R. L. S. (1)
『宝島』の海賊の唄 A Pirate Song from Treasure Island
ジューディーとジャーヴィー――ジュディーと冒険(3) Judy and Jervie: The Adventurous Judy (3)
どくろ図――髑髏と交差骨 Jolly Roger: Skull and Crossbones
ロング・ジョンとジョン・スミスの脚 Legs and Long John and John Smith
多弁にて失礼 Loquaciously Yours

 


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morichanの父

(た)さま、nice ありがとうございました。
by morichanの父 (2010-02-01 16:11) 

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