Herman Melville 避雷針売りの男ほか、尾川欣也注釈 [ひまつぶし]
途中でなんとなく予測していたことだけれど、シリーズ(の諸要素)はさまざまに混交して新たなシリーズをつくるものなのでした。
評論社から出ていた「英文世界名作全集」シリーズのC-8、自分が持っている版(昭和50[1975]年4月30日発行)だと世界名作シリーズ50 〔C〕 の尾川欣也訳注/H・メルビル『避雷針売りの男 ほか』は、それ以前に同じ評論社の「英米作家選 [Masterpieces of British & American Writers]」というシリーズの第8巻として1968年1月に出ておったのでした。
手元の版はページ番号が振られているのは85までですけれど、白紙と奥付とその裏の広告(↓)までカウントすると88なので、基本同じなんじゃなかろうかと思われます。
世界名作シリーズ50 避雷針売りの男 他 (1975.4.30)
「英米作家選 [Masterpieces of British & American Writers]」というシリーズは、たとえば次のような作家・作品をいれて、1960年代後半に出ていたもの(らしい)。
随筆選 / G.K.チェスタトン. -- 1967.4. -- (英米作家選 1)
短篇集 / N. ホーソン-- 1967.4. -- (英米作家選 2)
カンタビル邸の幽霊 / Oscar Wilde. -- 1968.1. -- (英米作家選 7)
避雷針売りの男 / Herman Melville. -- 1968.1. -- (英米作家選 8)
警官と讃美歌 / O. Henry. -- 1968.10. -- (英米作家選 9)
シャーロック・ホームズの冒険 / Conan Doyle. -- 1968.10. -- (英米作家選 10)
新しい文芸批評の方法 / C. S. Lewis. -- 1969.2. -- (英米作家選 11)
『シャーロック・ホームズの冒険』は『避雷針売りの男ほか』と同じく英文世界名作シリーズのCレベル(高校上級以上)のC-12に、『カンタビル邸の幽霊』はC-13に、おそらく衣替えしています。
実は2のホーソンと8のメルビルと10のドイルはいずれも尾川欣也の訳注なのでした。尾川欣也という人は、東海大学文学部第一外国語学科の専任だったらしいっす。『東海大学新聞』(2000年3月) には、4月1日付名誉教授として名前が挙がっています(外国語教育センター第一類)。
評論社から佐藤正司、徳永守儀と共著で、次のような参考書を60年代末に集中的に出版してもいます――『英語正誤問題の急所と演習』 (1967.5 [パターン・システム 1])、『英語選択・陥穽問題の急所と演習』 (1967.5[パターン・システム 2])、『英語書き換え問題の急所と演習』 (1968.2[パターン・システム 3])、『英文法・作文』 (1968.5[大学受験プランアップ問題集 12]; 1975.11[大学受験ニュー・プランアップ問題集 14])、『英文解釈』 (1968.8[大学受験プランアップ問題集 11]; 1975.11[大学受験ニュー・プランアップ問題集 13])。
あと、世界名作シリーズ49〔C-7〕の、もう一冊のメルヴィルの短篇集『幸福な失敗・バイオリン弾き』の訳注(たぶん1971年11月)も尾川欣也でした。メルヴィルが専門の人だったのではないかとも思われます。WEB上にはpdf. で読めるメルヴィル短篇論が見つかります。――
「Melvilleの短篇に於けるserenityの追求」 『東海大学文学部紀要』 15 (1971): 231-44 <http://nels.nii.ac.jp/els/110000195214.pdf?id=ART0000562409&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1257251911&cp=>
モーリちゃんの父は1960年代の大学受験というのは、庄司薫その他の小説などを通してしか知らず、メルヴィルと反体制とかを思いつつ、大学紛争で石を投げることとメルヴィルの石との関係とか、メルヴィル・インダストリーと呼ばれた研究の隆盛と資本主義的システムの関係とか、往時を思い遣るしかできないのですが、ともかく、受験生もメルヴィルを読んでいたというのはいろいろな意味でしみじみするのでした。
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Sky-Hawk: Melville Study Center, Japan <http://www.isc.meiji.ac.jp/~makino/index.htm> 〔Translation
: f. The Happy Failure と h. The Fiddler には尾川欣也の評論社の注釈書(対訳だから)が挙がっているけれど、g. The Lightning-Rod Man と c. Poor Man's Pudding and Rich Man's Crumbs には挙がっていないです〕
以下再掲――
C-7に入っている2篇――
"The Happy Failure" (Harper's New Monthly Magazine, July 1854)
"The Fiddler" (Harper's New Monthly Magazine, September 1854)
C-8に入っている2篇――
"The Lightning-Rod Man" The Piazza Tales (1856)
"Poor Man's Pudding and Rich Man's Crumbs" (Harper's New Monthly Magazine, June 1854)
Harper's New Monthly Magazine, Volume IX (June to November 1854) <http://www.archive.org/stream/harpersnewmonth04unkngoog#page/n7/mode/1up> 〔Internet Archive〕
お久しぶりです。
1960年代に石を投げていた人たちは、やはりメルヴィルと石の関係を思っていたのですねー。
本当にしみじみします。
by りす姉さん (2009-11-13 04:01)
りす姉さん、お元気そうでなによりです。
そうなんだよ。石を投げて壁を破ろうとするふるまいのようだが、壁も石の壁みたいな。
by morichanの父 (2009-11-16 06:45)
(た)さん、ナイスありがとうございます。
by morichanの父 (2009-12-01 13:45)