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本葬・・・・・・本の火葬 Cremation of Books as Bodies [Daddy-Long-Legs]

本を焼くことはいっぽうで焚書といって、中国では言論・思想・学問を圧迫・弾圧する手段として行なわれた(「焚書坑儒」とか)し、19世紀のナサニエル・ホーソーンの "Earth's Holocaust" (「地球の燔祭〔はんさい・・・・・・もともとユダヤ教で供犠の動物を祭壇で焼いて神に捧げる祭〕」 )(1844) とか、ホーソーンの時代には現在「ホロコースト」が持っている意味ではなかったのがナチスドイツのホロコーストや "bibliocaust" を経て、20世紀後半のレイ・ブラッドベリの Fahrenheit 451 (『華氏451度』) (1953) とか、文学作品でも描かれています。

1933-may-10-berlin-book-burning.JPG
Book Burning in Berlin, May 10, 1933 image via "Nazi book burnings," Wikipedia <http://en.wikipedia.org/wiki/Nazi_book_burnings>

  でも、purify の pur=pyr が fire であるように、火による浄化という観念も(東洋のほうが強いかもしれないけれど)あって、ナチスなんかは文化の浄化を目的として敢えて焚書という象徴的行為を行なったんだとも思います。

  土葬 burial が一般的であったヨーロッパで、火葬 cremation が次第に広まっていくのは19世紀になって、いっぽうで人口の増加(相対的に埋葬地の減少)と、一方でコロリ、いやコレラなどの流行による衛生問題への対策がかかわっているようです。

  高山宏の「死の資本主義」(『目の中の劇場』 (青土社 1985) 277-320) を読み直していたのですけれど、イギリスでは、ヘンリー・トムソンによる火葬推進運動の団体「クリメイション・ソサエティ・オヴ・イングランド(英国火葬協会)」が発足するのが1874年1月13日(「死体は「処分ディスポーズ」され得る一個のもの[傍点]なのだという、発想の革命的転換の日付け」)のことで、記録による火葬の普及は、1885年に全英で3体、86年に10体、87年に13体・・・・・・という遅々たるスピードだったそうです (pp. 316, 314)。ウィキペディアの記事にも書かれているように、話は最後の審判による復活という宗教的な教理と関わっていて、だから一部の保守的なキリスト教徒にとっては火葬は禁忌であったらしい。たぶん、だから、今日のいわゆる PC で "after-death care" という言い換えがなされるようです(『ジーニアス英和大辞典』)。

  と、こここまでの話は前置きで、『あしながおじさん』です。前の記事「ガス・ハウス Gas House」に書いたように、ジュディーは、自分の生んだ作品をキャンパス内のボイラーで火葬します。

I took it walking with me yesterday afternoon, and when I came to the gas house, I went in and asked the engineer if I might borrow his furnace.  He politely opened the door, and with my own hands I chucked it in.  I felt as though I had cremated my only child!
(昨日の午後、それをもってと一緒に散歩に出かけ歩きました。ガス・ハウスを通りかかったとき、中に入って、係の人にボイラーの火を貸してもらえるかお願いしました。親切にも炉の扉を開けてくれ、私は我が手で投げ込みました。まるで自分の子供を荼毘に付したような気持ちだった!)

   ちょっと訳語を「火葬」から「荼毘」に変えてみました。 it は原稿を指していますが、モノだから it なのだというより、子供だから it なのだ、という説明もありえると思います。

   思えば、2年生8月10日の柳の木のまたでの手紙でもそうですが、ジュディーは immortal (不死=不滅=不朽)な作品を残すことを願って創作に励んできたのでした。"I haven't had time yet to begin my immortal novel" (1年生7月12日のロック・ウィロー農場からの手紙: Penguin Classics, 47)、 "I came up with a pen and tablet hoping to write an immortal short story" (1年生8月10日のロック・ウィロー農場からの手紙: 76)、"Lecture notes all day, immortal novel all evening makes too much writing" (4年生5月17日の手紙: 121)。

   よくわからないのですけれど、こうして、本の死と不死と、作品を子供として産むことが関係付けられてイメジ化されているようなのでした。

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"Cremation," Wikipedia <http://en.wikipedia.org/wiki/Cremation

「火葬」 Wikipedia <http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%81%AB%E8%91%AC>

"Cremation vs. Burial - A Difficult Discussion About What To Do When a Loved One Passes Away" <http://www.cremation.net/Cremation-vs.-Burial-information.php> 〔Cremation.net 内〕

「葬儀の種類」 <http://www.sogi.co.jp/sub/jituyou/chisiki/syurui.htm> 〔東京都新宿区の表現文化社の SOGI 内〕

 


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