女の子のように洋服にエキサイトする――『あしながおじさん』のなかのサミュエル・ピープス(7) Excited about His Clothes As Any Girl: Samuel Pepys in Daddy-Long-Legs (7) [Daddy-Long-Legs]
『あしながおじさん』4年生2月15日の手紙のつづきです。
Seems a little early to commence entertaining, doesn't it? A friend of Pepys devised a very cunning manner whereby the king might pay his debts out of the sale to poor people of old decayed provisions. What do you, a reformer, think of that? I don't believe we're so bad today as the newspapers make out.
Samuel was as excited about his clothes as any girl; he spent five times as much on dress as his wife--that appears to have been the Golden Age of husbands. Isn't this a touching entry? You see he really was honest. "Today came home my fine Camlett cloak with gold buttons, which cost me much money, and I pray God to make me able to pay for it."
Excuse me for being so full of Pepys; I'm writing a special topic on him. 〔下のピープスの日記原文と参照のため太字強調付加〕
(人のおもてなしを始めるには少し早すぎるように思えませんか? ピープスの友人にたいへん狡猾な手段を考案した人がいて、国王の負債を支払えるように古くなって痛んだ食料を貧しい人々に売りつけたのです。社会改良家として、これをどう思いますか? 新聞が喧伝するほど今日の私たちは悪くないとわたしは思うのですけれど。
サミュエルは、自分の服装について、女の子みたいに胸躍らせました。妻の五倍も自分の服にお金をかけました――夫たちの黄金時代だったみたいです。日記の次の箇所は感動的じゃないでしょうか? 彼がまじ正直だったのがわかります。「今日、金ボタン付きの私の見事なキャムレットのマントが宅に届けられる。高額であった。神様、自分が代金を支払えますようお祈りします。」
ピープスだらけで失礼します。ピープスについて特殊研究レポートを書いているのです。)
"Seems a little early to commence entertaining, doesn't it?" になぜか改行せずに続いている、貧民に痛んだものを政府が売りつける話については調べがついていません。宿題です。ただ、ここで、ピープスを出してきた理由の少なくともひとつが示されています。貧しい人々と社会改良の問題です。ことにおじさんを "reformer" とわざわざ呼ぶことによって、前の月の貧しい人に小切手100ドルを送って救った話とつながってきます。
段落があらたまって、服に金をかける話について。ジュディーはモノであふれた物質文明への疑問をときどきは口にしますけれど、女の子としていろいろなものに惹かれているのも確かで、この一節に金持ち(前の段落の貧者と対照的に)への批判みたいなものがあるようには感じられません。むしろ皮肉があるとすれば、現代は妻の衣装に金がかかって、夫は自分の服に金はかけられない、という諷刺でしょう。ジーン・ウェブスター自身は、活動家がしばしば禁欲的な生活をするのに対して、ファッションや食事を大事にした人として知られているようです(これは確かエレイン・ショーウォーターもペンギン版の序文で書いていた)。
この日記のエントリーは1860年7月1日です。昼食を "dine" したり、あちゃこちゃ行く(とくに my Lord のところに何度も行く)記録もあるので、この日の全文を引用します。――
DIARY OF SAMUEL PEPYS.
JULY
1660
July 1st. This morning came home my fine Camlett cloak, with gold buttons, and a silk suit, which cost me much money, and I pray God to make me able to pay for it. I went to the cook's and got a good joint of meat, and my wife and I dined at home alone. In the afternoon to the Abbey, where a good sermon by a stranger, but no Common Prayer yet. After sermon called in at Mrs. Crisp's, where I saw Mynheer Roder, that is to marry Sam Hartlib's sister, a great fortune for her to light on, she being worth nothing in the world. Here I also saw Mrs. Greenlife, who is come again to live in Axe Yard with her new husband Mr. Adams. Then to my Lord's, where I staid a while. So to see for Mr. Creed to speak about getting a copy of Barlow's patent. To my Lord's, where late at night comes Mr. Morland, whom I left prating with my Lord, and so home.
いちおう書きとめておきますと、(1) This morning を Today に変え、(2) cloak だけではなくて絹のスーツもあったの ("and a silk suit") を削除し、(3) その勢いで "cloak, with" のところのコンマを削除しています。
『日記』の注釈は、camlett がウールとシルクを織りあわせた高級な生地でたいへん高価であることと、のちの1664年6月1日の日記にあるように、スーツに24ポンド支払った、と書かれています("[Camlet was a mixed stuff of wool and silk. It was very expensive, and later Pepys gave L24 for a suit. (See June 1st, 1664.)] <http://infomotions.com/etexts/gutenberg/dirs/4/1/2/4125/4125.htm>)。が、その日の日記を見てもそういう記述はないので、不詳です。
camlett は 英和辞典には "camlet" の綴りででています。語源的にはラクダのcamel と関係する(実際に中世のアジアでつくられた、ラクダ(やアンゴラヤギ)の毛からつくられた織物として知られていた)けれど、この東洋の織物を西洋風にアレンジ(模倣)してスベスベにした平織りの服地みたいです。しかし、イギリスにおいてもいろいろと時代によって変化した可能性もあります。
Naergi's Costuming Site は "Rococo women's clothing at the V&A (Victoria and Albert Museum, London)" のページ <http://www.naergilien.info/research/london1/VandA/Rococo/womens/index.htm> の中に1860年代の女性の乗馬服としてキャムレットを使った服の画像を挙げて、"Camlet (silk and camel hair)" と記述しています。これがヴィクトリア・アルバート博物館の記述なら、ほんとにラクダの毛が織られていたのかもしれません。
Daddy-Long-Legs, Century 初版 (1912) <http://www.archive.org/stream/daddylonglegs00websrich#page/266/mode/2up/search/camlett>
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E-text Works by Samuel Pepys at Project Gutenberg <http://www.gutenberg.org/browse/authors/p#a1181>
こんにちは。
色んな事を教え素敵な記事で楽しませて下さり
ご訪問頂きお世話になり有難うございました。
来年も宜しくお願い致します。
よいお年をお迎えください。
by kaoru (2009-12-30 15:35)
kaoru さま
お心のこもったコメントをありがとうございます。
信頼する知り合いからも自我いや字が多すぎる、と(前のブログから)再三言われておりまして、読んでくれる人は5人くらいと思っておりましたので、たいへん心打たれております。
よい年の瀬と新年を念じます。
by morichanの父 (2009-12-30 20:21)