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部屋の照明と就寝時間 Room Lamps and Lights Out [Daddy-Long-Legs]

えーと、書けばいいというものではないというのはわかっているのですが、つい細かく刻みだしたら、なんかテキストを容易に飛ばせない自分がいたりします(飛ぶのが怖い)。

Daddy-Long-Legs (Century, 1912) 266-7.JPG
WS000346.JPG

 

    4年生2月15日の手紙。サミュエル・ピープスについてさんざん書いたあと、大学の話題(まあ、ピープスも英国史の授業とレポートにからんでいるということではありましたが)に戻ります。

What do you think, Daddy?  The Self-Government Association has abolished the ten-o'clock rule.  We can keep our lights all nights if we choose, the only requirement being that we do not disturb others―we are not supposed to entetain on a large scale.  The result is a beautiful commentary on human nature.  Now that we may stay up as long as we choose, we no longer choose.  Our heads begin to nod at nine o'clock, and by nine-thirty the pen drops from our nerveless grasp.  It's nine-thirty now.  Good night.  (Century 267-268; Penguin Classics 117-118). 
(どう思いますか、ダディー。自治会が10時ルールを撤廃しました。我々は我々が望むなら一晩中でも灯りをつけておけます。唯一の必要条件は他の人たちに迷惑をかけないことです――大規模に人をもてなすことは想定されていないわけです。その結果は、人間性についての美しい注釈となっています。自ら選ぶだけ夜更かししてよくなった今、わたしたちはもはやそれを選びません。9時になるとこっくりしはじめ、9時半には握力を失なった手からペンが落ちます。9時半です、いま。おやすみなさい。)

    消灯時間については、1年生になりたての、ほんとに最初の手紙で書かれていました。――

The ten o'clock bell is going to ring in two minutes.  Our day is divided into sections by bells.  We eat and sleep and study by bells.  It's very enlivening; I feel like a fire horse all of the time.  There it goes!  Lights out.  Good night.
     Observe with what precision I obey rules―due to my training in the John Grier Home.  (Penguin Classics 14)
(10時のベルがあと2分で鳴ろうとしています。わたしたちの一日はベルでセクション分割されています。わたしたちはベルに従って眠り、勉強するのです。とても活気付けられます。いつも消防馬みたいな気持ちです。さあ、鳴ってる! 消灯~。おやすみなさい。
  いかに精確にわたしがルールに従うか、おわかりでしょう――ジョン・グリアー・ホームでの訓練のおかげです。)

  最初の日の記事については9月に「女子寮の話から火馬、火の車馬、火事馬、消防馬、消防馬車馬へ Fire Horses」であれこれ書きました。モデルになっているヴァッサー女子大学の時間に厳しい規則とか。

  その後にわかったことも含めて、ちょっとだけ書いておきます。

  1年生12月19日の2信というか、夜9時45分づけのほうの手紙で、他の女子に追いつくために、寝る前に本をいろいろと読んでいることが書かれている、そこで自室での読書の様子が描かれています。――

     [. . .]  Now, I know all of these things and a lot of others besides, but you can see how much I need to catch up.  And oh, but it's fun!  I look forward all day to evening, and then I put an "engaged" on the door and get into my nice red bath robe and furry slippers and pile all the cushions behind me on the couch, and light the brass student lamp at my elbow, and read and read and read.  One book isn't enough.  I have four going at once.  [. . .]
     (Ten o'clock bell.  This is a very interrupted letter.) (Penguin Classics 24)
(今、こういうことはみんな知っているし、その他にもたくさんのことを知ってますけれど、それでも、追いつくのにどれだけたくさん自分には必要かおわかりと思います。それにしても、ああ、楽しい! 夕方になるのが朝から一日待ち遠しいです。そしたらドアに「勉強中」を掲げ、素敵な赤のバスローブを着てふかふかのスリッパを履いて、クッションをありったけ背中に積みかさねて長椅子に寝転がると、ひじのところに真鍮の学生用ランプ (student lamp) を灯し、そして読んで読んで読みまくる。1冊じゃ足りないわ。4冊いっぺんに読むんです。
  (10時のベルです。とても中断の多い手紙になっています。))

    ここで出てくる student lamp は、ヴァッサー女子大の、19世紀末のジーン・ウェブスターが通った頃ですと、まちがいなくガスランプでした。

  ヴァッサー・エンサイクロペディアの "electricity" のページには、1905年ごろのガスランプを囲んで勉強する女子学生たちの写真が掲載されています。どういう空間なのかはわかりませんが。昼間かもしれません。――

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"Studying around a Welsbach gas burner in Main building, circa 1905," image via Vassar Encyclopedia <http://vcencyclopedia.vassar.edu/buildings-grounds/technology/electricity.html>

  Welsbach ウェルズバハというのは発明者であるオーストリアの化学者 Freiherr von Welsbach (1858-1929) の名をとったバーナー(あるいはマントル)の商標名です。酸化トリウムと酸化セリウムの混合物を付着させたマントルを過熱して白熱光を得られるようにしたのだそうです。

  このページを読むと、1870年代くらいまでは、学生の部屋には2フィートのガス燈が入っていて、勉強は8フィートの明るいガス燈のあるパーラーで行なうことが期待されていたのですけれど、実際は学生の多くは個室での勉強を好み、自室のガスの出をよくしようとバーナーをいじったり、場合によってはパンチをくれたりして、問題となったために4フィートに量を上げた。けれどもなお光量は不足して、視力低下や二酸化炭素中毒など健康の問題や火災の危険など懸念された。1873年には新聞が大学の管理を批判する記事を書きます。

  で、記事はその後の19世紀末のことがなにも書かれてなくて、つぎの段落では1911年にとんでいます。1911年から12年にかけてオール電化(というよりガスに加えて電力の導入)が行なわれた、という話です。――

Once Vassar's plan was approved, Lord & Co. began installation early in 1911.  By the commencement of the 1911 fall semester, electrical lighting and heating had been effectively installed in Main building.  The rest of the campus, including residence halls, academic buildings, and the library followed soon after, as electrical outfitting quickly reached completion by the early months of 1912. Once electrical lighting had become fully installed in the hallways of Main, students were provided with a gooseneck lamp in addition to the gas lamp, allowing them to arrange the light in almost any position. The gooseneck lamp also allowed for a sleepy roommate to rest as working students could direct the light to the corner of the room, effectively illuminating one side of the room and leaving the other in relative darkness. Instead of having to cope with the overhead flickering of the gas lamp, students began to prize the convenience and utility of electric light in their dormitory rooms [. . .].

    この電気導入は、先月「ガス・プラント Gas Plant」で書きました。建学当初からキャンパス内に設計されて、アメリカ初の大規模セントラル・ヒーティング施設として建物に暖房と照明用の熱とガスを供給していたガス・プラントでしたが、逆にそれゆえにアメリカの他大学等に遅れたかというとそうでもなくてだいたい同時期のようですけれど、さらに自家発電というかたちで電気をキャンパスに入れたのでした。

  上の引用には、1911年の秋学期が始まるまでには(commencement はここでは「卒業式」の意味ではなくて「開始」の意味だと思われます。confusing です)メイン・ビルディングには電気が入り、ついで学生寮や図書館など1912年の春には電化が完成したと書かれています。そこで学生たちはこれまでのガスランプに加えて "gooseneck lamp" (日本でアームライトとかフレーキスタンドとか言われるもの) を与えられ、ルームメートの迷惑にならないように角度を変えることもできるし、暗いガス燈をいじる必要もなくなって、明るい電気照明を享受したのでした。

  こうして、実質的に初代学長(1864-78) だったジョン・レイモンドが、学生がバーナーのガス量を増やそうといじったりなぐったりして細工するさまを “licht, mehr licht” (光を、もっと光を)と(ゲーテの臨終のことばとされているものでしたっけ)揶揄した時代から40数年を経てようやくもっと光が与えられたのでした。

  エーと。何の話でしたっけ。就寝・消灯時間の規則については調べておりません。1912年というのは『あしながおじさん』が出版された年です。この作品は単行本になるまえに雑誌に連載されていたのですけれど、母校の電化の話はジーン・ウェブスターにも伝わっておったのではないかと思われます。で、あれこれ懐かしんでるのかなあ、というふうにも思われます。

Studentroom1.jpg
"A student in her newly electrified room in Main Building, circa 1912" image via Vassar Encyclopedia

    新たに電化された自分の部屋で本を読む学生、1912年ごろ。

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さえとあすみ

こんばんは。ご無沙汰です。
morichanの父 さんの記事はじっくり読ませていただきたい!って思いが強くて秋以降は思うように時間が取れないまま今日まできてしまいました^^;
記事一覧だけでも読ませていただきたいものがあれもこれも。
年を改めてまたお邪魔します♪
ご家族が笑顔で過ごせる1年でありますよう^^どうかよいお年を☆
by さえとあすみ (2009-12-31 21:16) 

morichanの父

さえとあすみさま
新年おめでとうございます。
ありがたいコメントありがとうございます。
今年もよろしくお願いします。なんだか去年の正月を思い出してしみじみしました。皆様のご健康を祈念します。
by morichanの父 (2010-01-01 01:27) 

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