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シュワー――フランシスとフランセス Schwa: Francis and Frances [Marginalia 余白に]

 

Frances というのは女の名前で、『秘密の花園』と『白いひと』を書いた女性作家 Frances Hodgson Burnett やヨーロッパの神秘主義思想史の卓越した研究者であったFrances Yates が個人的には親しい。Francis というのは男の名前で、個人的に親しいのは・・・・・・うーん、作家のFrancis Scott Fitzgerald とアメリカ国歌を作曲した Francis Scott Key ですか(ちょっとわざとらしー)。

  Frances と Francis の e と i の母音(字)部分は、普及している発音記号だとどちらも同じ /ə/ で表記されます。モーリちゃんの父は英語音声学は何十年も前に習ったキリで、あとドイツ語やスペイン語の学生と一緒に実験音声学の機材を作り損ねてしょうがなく秋葉原まで修理に行ったりとか、音声関係苦手なんすけど、/ə/を「シュワー」と呼び、「曖昧母音」と称するというくらいの知識はあったつもりでした。

  んが、ウィキペディアを見ると、曖昧母音と等号で結ばれるのではないことを数十年ぶりに知りました。――

シュワー(schwa)とは母音の一つ。またはその音を表す音声記号・文字 ə のことを指す。ただし、その対象には二つのものがある。同じ記号で表されても両者は同じではない。

一つは国際音声記号によって定められた中舌で口の開きの度合いも中間的な中央母音 [ə] を指す。これを中舌中央母音(なかじた・ちゅうおうぼいん)または中段中舌母音(ちゅうだん・なかじたぼいん)という。

またもう一つは曖昧母音(あいまいぼいん)とも呼ばれ、各言語において見られるはっきりとした特徴のない中性的な母音のことをいう。言語によっては前述の中舌中央母音 [ə] でないこともあるが、音素表記では /ə/ と書かれることが多い。

この曖昧母音を音素としてもつ言語の発音を日本語で表記する場合、「ア段」または「ウ段」「オ段」で表記される。
〔「シュワー - ウィキペディア」〕

  ふーん。中段なんたら母音 (mid-central vowel) と曖昧母音は違うので、前者については「シュワー」と言わずに中舌中央母音とか中段中舌母音と呼ぶみたいですね。

  まー、なんだかよくわからないけれど、英語の Wikipedia のFrancis の記事を見ると、冒頭の記述はこんな感じ――

Francis is a French and English first name and a surname of Latin origin.

Francis is a name that has many derivatives in most European languages. The female version of the name in English is Frances, and (less commonly) Francine. (For most speakers, Francis and Frances are homophones or near homophones; a popular mnemonic for the spelling is "i for him and e for her".) The name Fran is a common diminutive for Francis, Frances and Francine. In Italian and Spanish, the form Fran is mostly used for boys and men, while Franci is more common for girls and women. 〔"Francis -Wikipedia"〕

  つまり、この名前の英語の女性版 (female version) は Frances (あと Francine)で、たいがいの話者にとって Francis と Frances は "homophones" 〔同音語〕あるいは "near homophones" 、それで、よくある区別法(記憶法)は彼に (him) はi で彼女に (her) は e

  Francis の発音のIPA (国際音声記号〔字母〕)表記は /fræncəs/ 、Frances のほうは(も) /fræncəs/(æ のストレス省略)。あー、いまリーダーズ英和をみたら、どっちも「フランシス」と表記されてました。

  さて、第一に発音記号が同一だからって現実に同一の発音とは限らないということがあります。それを前もって言っておきます。

  そして、日本では表記を微妙に変えることによって意味や指示対象の違いを示すというあたりまえといえばあたりまえですが、でも美しくオシャレな伝統がありました(し、あります)。バレエ〔舞踏の〕とバレー〔ボール〕とか、アイロン〔家政の〕とアイアン〔ゴルフの〕とか、シャベル〔庭の〕とショべル〔建築の〕とか(最後の例は英語 shovel の発音表記としては「シャ」が圧倒的に正しいのだけれど)。

  で、フランシスは男、フランセスは女、という了解が昔はあったように思われます。あるいは――聖フランシスとかサンフランシスコとかいう男性表記が確立された時点で、意識的にか無意識的にか心あるひとびとが女性を「フランセス」と表記して区別しようとした歴史があったように思われます。

  ウィキペディアの「シュワー」の記事の、「この曖昧母音を音素としてもつ言語の発音を日本語で表記する場合、「ア段」または「ウ段」「オ段」で表記される。」という記述は、なんたら母音と曖昧母音の新たな区別が自分にはよくわからないので、英語の場合のたとえば Watson の "o" がどっちなんだかわからないので、結果よくわからないのだけれど、ホームズの相棒の「ワトソン」「ワトスン」という表記にカラムように思われます。

  しかし、フランシスとフランセスは「イ段」または「段」なんだが・・・・・・なんだかなー。

  ひるがえって、発音記号が同じだから、どっちも「フランシス」で統一するべきだ、というのはおかしいと思うわけです、絶対に。

177px-Schwa_IPA_symbol_svg.jpg
"The IPA Symbol for the Schwa" image via "Schwa - Wikipedia" <http://en.wikipedia.org/wiki/Schwa>

 

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むかしの関連記事(?)――

July 15 ユニセックスな名前と発音の微妙な問題 Pronouncing Leslie, a unisex name [名前 names]」 (2008.7.15@カリフォルニア時間)

 


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morichanの父

kaoru さん、おはようございます。nice ありがとうございます。
by morichanの父 (2010-09-26 09:42) 

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