SSブログ

『若草物語』におけるライムのピクルス Pickled Limes in _Little Women_ [Little Women]

『あしながおじさん』1年生初めのころの12月19日の手紙で、普通の女の子たちが普通の家庭環境で自然に吸収して知っているものをいかに自分が知らないか、というジュディーのリストが示され、そのあと、ギャップを埋めるべく今同時並行で読んでいる作品として『若草物語』が言及されるとき、物語の代表的エピソードとしてライムのピクルスが出てきます。――

I have a new unbreakable rule: never, never to study at night no matter how many written reviews are coming in the morning.  Instead, I read just plain books―I have to, you know, because there are eighteen blank years behind me. [. . .] I look forward all day to evening, and then I put an "engaged" on the door and get into my nice red bath robe and furry slippers and pile all the cushions behind me on the couch and light the brass student lamp at my elbow, and read and read and read.  One book isn't enough.  I have four going at once.  Just now, they're Tennyson's poems and "Vanity Fair" and Kipling's "Plain Tales" and―don't laugh―"Little Women."  I find that I am the only girl in college who wasn't brought up on "Little Women."  I haven't told anybody though (that would stamp me as queer).  I just quietly went and bought it with $1.12 of my last month's allowance; and the next time somebody mentions pickled limes, I'll know what she is talking about!  (Penguin Classics 24) 
(わたしは新しいルールをつくって絶対に破らない覚悟をしました。翌朝いくら筆記試験があっても、前の晩は決してけして勉強しないことです。そのかわりに、やさしい本を読みます。だって18年というブランクを埋めるためには、どうしても必要なんです。[・・・・・・] わたしは1日じゅう早く夕方にならないかと待ちわびて、それからドアに「仕事中」の札をかけ、すてきな赤い化粧着にきがえて室内履きをはき、寝椅子にありったけのクッションを重ねてよっかかり、ひじのところに真鍮の勉強用ランプをつけ、読んで読んで読みまくるのです。1冊の本では足りません。同時に4冊を読んでいます。いま、テニソンの詩集と『虚栄の市』とキプリングの『高原平話』と、あと――笑わないでください――『若草物語』を読んでいます。『若草物語』を読まないで育ったのは大学内で私ひとりのようです。でも誰にも言いませんでした(言ったなら、変人とレッテルを貼られるでしょう)。黙ってその場を離れて〔本屋さんに行き〕、先月分のおこづかいから1.12ドル出して買いました。今度誰かがライム・ピクルスのことを言ったら、何を話しているかわたしにもわかります!)

  この『若草物語』の "pickled limes" のエピソードは、『若草物語』の第7章「エイミーの屈辱の谷 (Amy's Valley of Humiliation)」という短い章に書かれているものです。

WS000565.JPG
馬上少年過・・・・・・

  かいつまんで記述するならば――

  友情の証として女学生同士でライムのピクルスをあげっこするのが流行していて、エイミーは借りがだいぶたまっていて、ほしくても受け取れない状況がこの一週間ほど続いています。それで、一人言めかして、「ローリーが馬に使えるお金の一部でも自分にあったらなー」と姉たちに聞こえるように言い (she added, as if to herself, yet hoping her sisters would hear)、やさしく言葉をかける長姉のメグに、ライム・ピクルスの借りが少なくとも1ダースはあって、お金が入るまで返せないこと、そしておかあさんはお店でツケにするのを禁じていること (Marmee forbid my having anything charged at the shop) を言います。エイミーがあまりに真剣なのでおかしさをこらえながら、メグは、「詳しく話してみて。今の流行は、じゃあ、ライムなのね (Tell me about it.  Are limes the fashion now?)・・・・・・」と言う。
  "Why, you see, the girls are always buying them, and unless you want to be thought mean, you must do it, too.  It's nothing but limes now, for every one is sucking them in their desks in school-time, and trading them off for pencils, bead-rings, paper dolls, or something else, at recess.  If one girl likes another, she gives her a lime; if she's mad with her, she eats one before her face, and don't offer even a suck.  They treat by turns; and I've had ever so many, but haven't returned them, and I ought, for they are debts of honor, you know." (えーと、あのね、女子はずっと買ってるの。けちんぼと思われたくなければどうしても買わなければならないの。いまはだんぜんライムなの。だってみんな授業中は机に隠してなめているし、休み時間になると鉛筆やビーズ指輪や紙人形やらなんかと交換するんだ。もしもある女子が別の女子を好きだとするでしょ。そうするとライムをあげる。シャクにさわっている子だと、目の前で食べて、なめさせてもあげない。かわりばんこにおごるのよ。わたし、とってもたくさんもらったのに、お返ししてないのだもの。返さなければ。名誉にかかわる借りなのですもの。)
  そして、エイミーはメグに25セント玉をもらい、それだとおつりがくるから、お姉さんにも、と言いますが、メグは自分の分はあげるから大切に使いなさい、とさとします。エイミーは、おこづかいがあるっていいなあ、といいます(どうも順番のゴミの片付けのときとかぐらいしかお金をもらえないみたいです)。
  翌日、(たぶん店に寄ったために)遅れて学校に着いたエイミーは、机の下の棚に「湿った茶色の紙袋 a moist brown paper parcel」を突っ込みますが、その前に、ついそれを見せびらかすという誘惑に駆られます(でも語り手はこれを "pardonable pride" としています)。たちまち、エイミーが24個のおいしそうなライム・ピクルスをもってきた!というニュースが仲間内を駆けめぐる(1個はみちみち食べてしまったのでしたw ということで、ここで与えられる情報は、ピクルド・ライムはお店で1ヶ1セント也、ということなり)。ケイティー・ブラウンは、つぎのパーティーにエイミーを招待すると言明し、メアリー・キングズリーはつぎの休み時間まで懐中時計を貸すと言う。そしてライムをもらえない時期のエイミーに意地悪を言っていた皮肉屋のジェニー・スノーも、即座に矛をおさめて (promptly buried the hatchet) 気の遠くなるような足し算の答えを教えてくれる。のですが、このジェニーが前に言った「他の人のライムを嗅げないくらいには鼻が低くない人たち、と、他の人のライムを欲しいといわないくらいには高慢ではない人たち (some persons whose noses were not too flat to smell other people's limes, and stuck-up people, who were not too proud to ask for them)〔stuck up は "proud" の意味があるけれど、もとの現在形の stick up は「突き出す」とか「高いところにはりつける」の意味で、"flat" の反対〕」についての憎まれ口を決して忘れることのできないエイミーは、「電報」をまわして、「とつぜん親切にしていただくなくてけっこうよ。あなたにはあげません」とジェニー・スノーに告げてしまいます。
  結果、大人びたジェニーによって、エイミーは机の中にライム・ピクルスを隠しているとデイヴィス先生にチクられることとなります。デイヴィスは、ライム禁止を宣言し、破った者はムチ打ちの罰を与えると宣言していた先生でした。

Amy(LittleWomen,Ch.7).jpg
illustration by Norman Little

  エイミーは教室の窓から両手で2×2個ずつ×6回にわたってライムを投げ捨てさせられ、その後、手をムチ打たれます。さらに休み時間まで教壇上に立っているように命じられる。恥辱にまみれたエイミーは休み時間になると家に帰り、家族に報告します。ジョーは怒りに燃えて、母親の手紙を携えてデイヴィスの学校へ行き、エイミーの持ち物をすべて持ち帰ります。とうぶんエイミーは学校をやめることになります。

Amy(LittleWomen).jpg
illustration by Frank T. Merrill

  まー、この章のモラルとしては、教養や知性を見せつけたりひけらかさないことがすてきなのであって、それは、(ジョーの言葉を借りれば)ありったけの帽子や洋服やリボンを全部からだにくっつけてほらこんなに持ってるわよ、と見せびらかすのがいかにおかしいか、ということなのですけれど(そして、「屈辱の谷」というのはバニヤンの『天路歴程』で、「死の影の谷」につながる場所です)、そのモラルはさておき、モーリちゃんの父的には、あしながおじさんから若草物語に目を向けたときに、このエピソードがなんでジュディー(ジーン・ウェブスター)に選ばれたのかしら、と気になりました。(1) まじめに考えると学校や孤児院などの施設の専制的な体制に対する批判なのでしょうか。(2) でも、たぶん、それよりは友達同士の友好関係を示すシルシとしてのライムというのに孤児のジュディーは惹かれたのでしょうか、ね。

  個人的には、一升瓶の栓(フタ)のコルクの部分をとってメンコがわりにしたりとか、牛乳瓶のフタに切れ目を入れてゴムで飛ばすとか、あるいは地味(?)にアヤトリとかお手玉とか、小学校時代にアレコレと流行があったなあ、となつかしい思いになったりもしました。駄菓子屋にあったヘンな梅干しみたいなのと、黒いフガシは大人になっても食べませんが、子供のころ食べなかったよっちゃんの酢漬けイカはビールのつまみに食っているこのごろです。

  なお、自分が調べたところでは、pickled lime は塩だけでつくる場合と、塩とヴィネガーの両方を使うのと、ふたとおり作り方はあるようです。それから、ピクルド・ライムに使うライムは小型の品種(学名は2種類くらいまで特定できているのですがまだ自信なし)で、ゴルフボールぐらいのものみたい。


nice!(2)  コメント(4)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。