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彼/彼女の、彼(女)の、彼または彼女の、モノ (2) He/She; He or She; (S)he; His/Her; His or Hers; His (Her); His/Hers; His (Hers); His or Hers [文法問題]

『あしながおじさん』3年生6月10日の手紙の文法問題の続きです。前の引用を少し短くつづめておきます。―― 

You mustn't get me used to too many luxuries.  One doesn't miss what one has never had; but it's awfully hard going without things after one has commenced thinking they are his―hers (English language needs another pronoun) by natural right.   (Penguin Classics 105: 太字強調付加)
(わたしをあんまりたくさんの贅沢に慣れさせてはいけません。ひとはだれも、手にしたことのないものは、なくても不自由することはありません。でも、一度、これは生得権みたいに彼の――彼女の(英語という言語はもうひとつ代名詞が必要)――ものだと考えはじめたあとではそのモノなしにすごすのはすごくしんどくなります。) 

そして、前の記事「彼/彼女の、彼(女)の、彼または彼女の、モノ He/She; He or She; (S)he; His/Her; His or Hers; His (Her); His/Hers; His (Hers); His or Hers」に今朝追記したところから書き出します。

〔所有代名詞 one's が〕「あります*」「ありです*」、と書いたのは、文法書をひもといて確認したのではなくて、日本語ウィクショナリーの "yours" 掲載の表を見て、ふーん、あったのか、と思ったしだいです――<http://ja.wiktionary.org/wiki/yours> 。 でも「所有格代名詞」(これもうっかりそこからとりました)という呼称も「所有代名詞」という書き方とのあいだで揺れていますし、信頼できるかどうか不安になりました。

  つまり one's の所有代名詞をウィクショナリーはあるといっているけれど、どうも信用できかねるという感じがしました。そして、朝から文法書(江川泰一郎の)を探しているのですが、見つからず、しかたがないのでWEB であれこれと眺めたり OED などの辞書をあらためて引いたりしました。

  まず、学習辞典として信頼できる研究社の英和中辞典を見てみたら、its と one's については代名詞の形容詞的な所有格としてはとりあげていますけれど、his とはちがって「所有代名詞」としての用法を記していません。

  ネット上に硬軟いろいろある英文法サイトのなかでは、『自由学芸堂英語――自由にマナブ人のための実践教養英語ハンドブック』の「代名詞」のページ <http://manabu.s15.xrea.com/english/chapter04/pronoun.html> は、「所有代名詞」の項で、つぎのように解説していました。――

所有代名詞は、「…のもの」という所有物を単独に表現する語です。 所有代名詞には、mine(例文1), yours, his, hers, ours, yours, theirs があります。 it に対する所有代名詞は存在しません。 所有代名詞はすべて第三人称として扱います。

  it に対する所有代名詞はないぞ、としています。one, one's  については、そもそも1人称から3人称までの人称代名詞のなかに入れていないので、言及がありません。

  「所有代名詞」は英語だと "possessive pronoun" です。英語のウィキペディアの "Possessive pronoun" <http://en.wikipedia.org/wiki/Possessive_pronoun> を見ると、現代の英語に所有代名詞は、"its" も入れて 7個、そして古い2人称の thine もある、と書かれています。――

There are seven possessive pronouns in modern English: mine, yours, his, hers, its, ours, and theirs, plus the antiquated possessive pronoun thine (see also English personal pronouns). The word its is, however, rarely used as such (almost always it functions as a possessive adjective). (現代英語には7個の所有代名詞がある――mine, yours, his, hers, its, ours, theirs。それプラス古い所有代名詞の thine がある。しかし、 its は所有代名詞として用いられることは稀である(ほとんどつねに所有格の形容詞として機能する)。

  英語のほうの Wiktionary の "its" <http://en.wiktionary.org/wiki/its> を見ると、 pronoun (代名詞) としての用法の説明が用例とともに、なんかまだるっこい言葉遣いで書かれています。――

Pronoun

its

Its is extremely rare as a pronoun, the pronoun it being very rarely stressed. Moreover, there is very rarely need for Its as a possessive pronoun. (its は代名詞としてはきわめて稀。それは代名詞 it が強調されることがきわめて稀だから。そのうえ、所有代名詞としての its の必要はきわめて稀にしかない。) 

The mind has its reasons and the heart has its.

  そして、Wiktionary の "one's" <http://en.wiktionary.org/wiki/one%27s> を見ると、いちおー pronoun として挙がっています。でも説明が its のほうの説明と響きあっていない、とてもあいまいな記述です。――

Pronoun

one’s

  1. belonging to one

  これだけで用例はないです。これって ("belonging to one" って名詞句じゃないよ)、形容詞的な使い方(my とか your とか her みたいな)じゃないの? と思えるのですが、"Usage notes" のひとつめには "Unlike all other possessive pronouns (yours, hers, yours) one’s is spelled with an apostrophe. " と書かれています。(「one's - ウィクショナリー日本語版」 <http://ja.wiktionary.org/wiki/one%27s> )も参照(リストつき)。

  OED を見ると、its は "its, poss. pron." として、A は形容詞的な使い方で、"As adj. poss. pron. Of or belonging to it, or that thing (L. ejus); also refl., Of or belonging to itself, its own (L. suus)." と記述しています――つくづく思うのですが、「代名詞」とか pronoun とか possessive pronoun とか adjective (形容詞)  とか、文法家によって範疇が違いうる、あるいは捉え方が異なりうる、ので、誤解が生じうるのではないかと思われ。adj. poss. pron. というのは adjective possessive pronoun ですから、「形容詞的所有代名詞」なんすかねー。ともかくこの A はふつうの使い方というか、1834年の用例だと "The Gospel has its mysteries." みたいなやつです。

  そして B は独立用法 (absol.) で、つぎに名詞 [n.= noun]がつづかない場合 ("used when no n. follows")で、意味は: Its one, its ones.  そしてラベルは rare. 稀。用例は17世紀はじめのシェークスピアひとつしかないです。――Each following day Became the next dayes master, till the last Made former Wonders, it's. (Henry VIII, 1.1.18 [First Folio])  なんか、全体が古くて、そもそも its じゃない(笑)。まー、これでも現代英語 (Modern English) ですけど。いまの英語 (present-day English といったりする)にすると、 Each following day became the next day's master, till the last made former wonders, its.  でしょうか。むつかしー。

  このシェークスピアの用例から検索して知った、堀田隆一というひとの、英語史に関する話題を広く長く提供し続けるブログ hellog の2009年11月10日の記事「#197. its に独立用法があった![personal_pronoun]」によると、対比表現のなかに限られるようだ、とのことです。――

〔・・・・・・〕「それのもの」という表現は確かに他の性や人称に比べれば使用頻度が少ないように思われるが,its という限定用法がありながら,独立用法が欠けているのは,体系として欠陥であるといわざるを得ない.
 しかし,驚くなかれ,この its には非常にまれながら独立用法が存在するのである.あまりに稀少なので屈折表のなかに取り込まれていないだけで,「あり得ない」わけではないということを示しておきたい.ただし,its が独立用法として使用されるのは,対比表現に限られるようである.〔・・・・・・〕<http://c-faculty.chuo-u.ac.jp/~rhotta/course/2009a/hellog/2009-11-10-1.html>

  まー、驚きはしなかったのですがw、なるほどね。で、堀田さんによると、「対比としてでなければ使用できないのでは,やはり屈折体系に納めることはできないということか」。屈折 (inflection) 体系というのはくだいていえば I my me mine みたいな変化のリストです。

  さて、one's はいかに? いちおう確認しておくと、one は someone とかも含めて「不定代名詞」という範疇に入れられ、「人称代名詞」の中に入れられないのがふつうのようです(one って3人称じゃないの?といいたいとこですが。ついでに書いておくと、一般の you (generic you) という「2人称」がありますが、これって one とどうちがうん? というのがわたしも含めてしろうとの疑問としてありますねー。ちなみにウィクショナリーは「汎称代名詞」ということばで one を呼んでいます。「4人称」という4次元的なコトバで不特定のヒト・モノを指す代名詞を呼ぶこともあるようですがわけわからんです。おそらく、one といっても3人称の対象だけでなく相手 (second person) も入ったり、あるいはワタシ (first person) のかわりに one を使ったり、それは generic you の場合も似たところがあり、1,2,3に特定できないから不定なんだろうと思うんですけど・・・・・・)。 OED を見ても用例は見つかりませんでした。英語史に関する話題を広く長く提供し続けるブログ hellog で検索しても見つかりませんでした、残念なことに。

  それで、最終的結論は先送りなのですけれど、たぶん、ということで適当に〆ておきます。たぶん、ジュディーは、one's の「独立用法」がないことを英語の問題として言っているのでしょう。もう一度書くと、つぎのような文が認められない、ということです。――

One doesn't miss what one has never had; but it's awfully hard going without things after one has commenced thinking they are one's.*

    自信まったくなし。

One doesn't miss what one has never had; but it's awfully hard going without things after one has commenced thinking they are his―hers (English language needs another pronoun).

     一般論としては、現在ならば his という男性中心の代名詞に対する反発から his/hers とか his or hers とか併記するか(主格の場合は he/she, he or she に加えて (s)he みたいな書き方もあり)、あるいはいわゆる "singular they" を使って、論理的には単数であるのを承知で男女両方を指す(あるいは性にこだわらない) 複数形の they を使う習慣が、いちぶ識者(?) のあいだでは1980年代くらいから流行ってきました。前者についてはもってまわった感じが鼻につきますし、後者は単数・複数がズレルところがいやだなー、ということで、全面的に受け入れられてはおらないようです。後者の they については、もっとも上の文だと、その前の things を受けた they とぶつかってしまい (they are theirs) 、何がなにやらわからない文章になってしまいそうです。

  「人称」というのは「ヒト」じゃなくても person だという感覚が日本語的にはおかしくて、そのへんマヒさせて、学術用語として受け入れているところがおそらくあって、そのへんもわけのわからなさを増幅する要因のひとつになっている気がします。なにしろ神の3つのペルソナ――父なる神(聖父)、子なる神(聖子)、聖霊なる神(聖霊)――も person ですから、どうにも実感的につかみづらいです。

  そして、ジュディーの文章で少なくとも表面的に問題になっているように見えるのは、いわゆる「人称」――1人称、2人称、3人称――ではなくて、ジェンダー(性差)の問題です。けれどもそう見えるだけで、ジェンダーの問題を問題にしているのではないのかもしれない。でも one/one's の英文法問題から発展して問題にしているのかもしれない。そのへんがおもしろいのでした。うわー、解答出てないや。

  まじめに「英語に必要なもうひとつの代名詞」を考えると、複数形の they は "gender-neutral" です。単数形で gender-neutral な代名詞としては it しかない。しかし it は無生物しか原則的には指せません(赤ん坊とか、物語内で性別不明の段階で声の主とかを it で指すことはあるけど)。そうすると、必要なのは one's の所有代名詞化ではなくて、ヒトを指す gender-neutral な単数形代名詞ということかもしれません。

  〔21時50分追記〕しつこく書くならば――、前の記事で、ふたつ可能性みたいなことを書きました。

a)  his と書いたけど、hers というもうひとつの ("another") 代名詞が必要とされる。

b)  his と書き、hers と書かねばならないのは不便なので、もうひとつ別の、これとちがった ("another") 代名詞が必要ではなかろうか。

  うーんと、b´) というか、

c)  one は男も女も(あなたも彼もワタシも)一般論的に指せると思って書き始めたけれど、所有代名詞で詰まってしまい、his―hers と書かざるを得なかった。英語はもひとつ別の――one ではない――代名詞が必要だわ。

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"Gender-neutral pronoun," Wikipedia <http://en.wikipedia.org/wiki/He/she> 〔残念ながら対応日本語記事なし〕

"Singular they," Wikipedia <http://en.wikipedia.org/wiki/Singular_they> 〔残念ながら対応日本語記事なし〕


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